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「住民の意向取り入れは当然」 「我慢強いる『お上』」問題指摘 国事業凍結後押し 元自民重鎮・鯨岡氏


「住民の意向取り入れは当然」 「我慢強いる『お上』」問題指摘 国事業凍結後押し 元自民重鎮・鯨岡氏 鯨岡兵輔元衆院副議長(右)と孫の中島隆太氏(中島氏提供)
この記事を書いた人 Avatar photo 南 彰

 かつての自民党には、「わが国の政治は地方自治の本旨に基づいている」と語り、国策にあらがう住民運動を支援する国会議員がいた。元衆院副議長の鯨岡兵輔(くじらおか・ひょうすけ)氏(1915~2003年)だ。沖縄にも縁のあった鯨岡氏の孫は、辺野古新基地建設をめぐる現状について、国政を担う政治家の怠慢を指摘する。

 鯨岡氏は00年まで37年間、衆院議員を務めた自民重鎮だった。80年代、当時の竹下登首相が推進していた中海(なかうみ)・宍道湖(しんじこ)の干拓・淡水化事業に反対する住民運動を支援。完成直前に国の大型公共事業を凍結へと追い込む流れを後押しした。

 「皆様の熱心な討議と運動に対し心から敬意を表します」

 工事を止めさせるため動いていた88年11月、住民運動のリーダーの保母(ほぼ)武彦氏に宛てた手紙だ。「地方住民の方の意向は大幅にこれを取り入れなければならないのは当然のことです」などと書かれていた。1月15日付の本紙記事で一部を紹介したが、その下りの後に「多少余計なことを付言すれば」と続きがある。

 「中央政府は自分の立てた案を最上のものとして、他の容喙(ようかい)を許さず、これをあくまでお上の考えとして通そうとする傾向。地方政府はこのお上の考えをできるだけ取り入れて住民に我慢を強いる傾向。住民はお上の声として泣く子と地頭にはかなわぬと諦める傾向。私は、永い政治生活の中でまだまだそういう傾向があることを残念に思います」(原文ママ)

 日本にはびこる「お上意識」への問題意識だ。孫でミネソタ大教授の中島隆太さん(52)は「祖父は、中央だけが都合のいいような政治、国民を心配させるような政治をしてはいけないという気持ちが強かった」と振り返る。地方に建てられる原発についても「『安全』と言うなら東京湾のど真ん中に造ればいい」と反対を訴えていたと話す。

 鯨岡氏は生前、衆院沖縄特別委員会の調査団長や総理府副長官として「返還前の沖縄によく行った」と語っていたという。存命だったら、今の辺野古で進む国策についてどう語っただろうか。自身も沖縄科学技術大学院大学で共同研究をしてきた中島さんはこう想像する。「政治家の勉強不足やおごりから、なぜ辺野古が必要なのかという説明ができていないで、工事だけ強行している。これは政治の怠慢ではないか。たぶんそういう議論になったと思う」

 (南彰)