30年ぶりとなる断水の危機が迫っている。沖縄本島では、昨年9月以降、少雨傾向が続き、本島内11ダムの貯水率の低下が止まらない。3日午前0時時点で43.6%と、2014年に11ダム体制になって以降で最低のレベルが続いている。まとまった降雨が期待できる梅雨時まで長い期間があることから、今後も少雨が続けば1994年以来の断水が実施される恐れがある。
(與那原采恵、沖田有吾)
■全国的な渇水
昨年9月からことし2月まで、沖縄本島の水源地での降水量は、平年の48.5%と半分以下にとどまっている。ダム貯水率は、昨年8月の台風による大雨で100%になった後、「貯金」を使い続けている状態だ。沖縄気象台によると、5月までの向こう3カ月間の降水量予報は平年並みか多い見込みだ。
沖縄総合事務局北部ダム統合管理事務所によると、少雨が続いて山が乾いているため、昨年10月以降は国が管理する9ダムの流域に降った雨のうち3割以下しかダムに流れ込んでいないという。まとまった雨がある程度継続的に降るまで、貯水率の回復は楽観視できない。
少雨は沖縄だけではなく全国的な傾向だ。中国地方や四国地方では既にダムからの取水制限に至った地域もある。関東や近畿でもダム貯水率が低下。琵琶湖の水位も下がり、漁船のスクリューが湖底に接触したケースも。万が一にも空梅雨となれば全国的に渇水が深刻化する恐れもある。
■PFASへの懸念
市町村へ水を供給する県企業局は、渇水対応として1月に海水淡水化装置のフル稼働を開始、2月には有機フッ素化合物(PFAS)汚染の対策として停止していた本島中部の嘉手納井戸群、天願川からの取水を始めた。2月28日からはPFAS濃度の高い比謝川からの取水も再開した。
米軍基地が汚染源と推測されるPFASに対し、県民の懸念は強い。企業局も可能な限り取水せずに対応しようとしたが、断水の回避を最優先目標として、ダム貯水率を温存するために再開を決断した。北谷浄水場で高機能活性炭での吸着により、浄水後のPFAS濃度は国の暫定目標値を大幅に下回る水準まで抑えられる見込みだ。
■断水の記憶、遠く
島しょ県で大きな河川のない沖縄では過去に何度も断水が実施された。県企業局のホームページによると日本復帰した1972年から94年までに、延べ1130日の断水が行われた。81年から82年にかけては326日間の給水制限が行われ、日本の上水道では最も長い記録だという。
ダムの整備が進んだことで本島では94年1月28日から3月1日まで、夜間8時間(午後10時~午前6時)の断水を最後に、渇水を原因とした断水は行われていない。若い世代を中心に断水の経験や記憶がない人も多く「節水を呼びかけてもいまひとつ反応が鈍い」(県関係者)という。
かつての沖縄では渇水に備えて多くの住宅の屋上に貯水タンクが備え付けられていたが、近年では見かけなくなっている。一級建築士事務所「間+impression」の儀間徹代表によると、2000年ごろからタンクを備える家が減り始め、04年ごろには同事務所が手掛ける新築の家ではほとんど付けなくなったという。断水が遠ざかって必要性が薄れたことの他、外観が良くないことやコストがかかることから姿を消していったようだ。
■節水が必要
ちなみに、沖縄総合事務局や県、那覇市、沖縄市、浦添市の担当者などで構成する沖縄渇水対策連絡協議会が断水を決めると直後に雨が降る、ということがあった。
少雨だった93年は、8月、9月に給水を制限する予定だったが、直前に台風が襲来し、断水は延期された。ただ、今回は梅雨や台風のシーズンまで期間が空くことから「天候に期待していては手遅れになる」(渇水協関係者)との危機感がある。
求められているのは節水だ。県民だけでなく観光客や米軍関係者も含め、沖縄で水を使う全ての人が節水を意識する必要がある。企業局のホームページによると那覇市在住の4人家族で、1人1日当たり225リットルの水を使うと想定される。仮に1人が1割節水すると、沖縄本島内の134万人で1日3千万リットル以上の節水となる。さらに観光客らに節水への協力が広まれば、効果はより大きくなる。
手洗いや歯磨き時に水を流しっぱなしにしない、シャワーはこまめに止める、などすぐにできることも多い。企業局はホームページで、トイレの貯水タンクに水の入ったペットボトルを入れる、食器は油を紙で拭いてから洗う、米のとぎ汁、温水が出るまでの水は庭木への散水に回すといった節水法を紹介している。