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がれき、風評、乗り越えたのに…再び試練 漁師ら「努力を無駄にしないで」 <立ち上がっても 福島・東日本大震災13年>上の続き


がれき、風評、乗り越えたのに…再び試練 漁師ら「努力を無駄にしないで」 <立ち上がっても 福島・東日本大震災13年>上の続き 東京電力福島第1原発の敷地内に並ぶ処理水の保管タンク=2月11日(共同通信社ヘリから)
この記事を書いた人 Avatar photo 新垣 若菜

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 黒潮と親潮が出合う潮目の海の恩恵を受けた福島の漁業は、メヒカリやヤリイカ、ユメカサゴなど200を超える多彩な魚種が誇りだった。

 地震、津波による甚大な被害に加え、福島第1原発の水素爆発に伴う影響は恵みの海に大きな試練を与えた。

 「魚が売れない以前に、そもそも長い間漁もできないとこからだったんだから」。底引き網漁師の志賀金三郎さん(77)=福島県いわき市小名浜=は振り返る。海の中のがれきの撤去作業にかかった歳月は約3年。原発事故の影響で国は出荷制限を指示し、最大で44種類に制限がかかった。試験操業はわずか3種類からだった。隣近所からは「子どもがまだ小さいから魚はいらない」と言われることもあったが、誇りある常磐ものをたくさんの人にとの思いから漁を続けた。

 21年3月末、それまでの試験操業が終了し本格稼働に向けた移行期間に入った。「順調な歩みではなかった。風評被害も当然あった。みんなで頑張って、ここまでやっと来られたんだから」

 復興に向けた歩みを進める中で、再び試練が訪れた。処理水放出の話が舞い込んだ15年、政府、東電は「関係者の理解なしにはいかなる(処理水の)処分も行わない」と約束。もちろん漁業関係からは放出に大きな反対の声が上がった。志賀さんも何度も説明会に参加し風評被害の懸念を訴えた。ただ、返ってくる答えは「安全だから」の一言だった。

 23年8月の放出から半年、消費者の買い控えなど大きな影響は出ていない。だがこの間、別の廃炉作業では人為ミスに起因するトラブルが相次ぐ。2月には汚染水浄化設備がある建屋から放射性物質を含む水が漏洩(ろうえい)したばかり。「30年後も安心安全と言えるのか。放出にしてももう少し別のやり方があったのではないか」と憤りを隠せない。

 震災と原発事故から13年。震災前の2割程度だが漁獲量も戻った。「これまでの関係者の歩みと努力を国は無駄にしないでほしい。今日も明日もいわきの魚を食べてほしいから」。政府や東電の対応はいまだに納得がいかない。それでも、復興への揺るがない思いを胸に前を向く。

 (新垣若菜)