自由社は、沖縄の復帰を「民族の再統一」と記述しているが、これは多くの県民が望んだ復帰ではなく、その後も広大な米軍基地が残され、基地の重圧が続き、多くの県民が共有してきた復帰認識とは言い難く、不十分な記述と言える。そしてその復帰を「功績」として佐藤栄作がノーベル平和賞を受賞というのは、正確さに欠ける記述である。
現在では選考資料なども公開され、受賞当時の状況や議論の中でも懸念があったことなども指摘されている。本記述は、前回検定の教科書から変更のない記述であり、前回も今回も検定意見はついていない。教科書記述として不十分であり、訂正の必要があるのではないだろうか。
教科書検定は、それ自体が検閲的な機能を持ち、学術的な判断ではなく、政治的な判断により検定意見がつけられて問題となってきた。教科書記述が具体的な学術研究の成果に基づいたものであり、子どもたちにふさわしい記述かを、検定にゆだねるのではなく、専門家、県民の幅広い議論の中でふさわしい教科書記述を考えていくことが重要である。
また、教科書会社全般に言えるのは、憲法9条や集団的自衛権の問題など、国民の意見を二分している部分について踏み込めていない。ウクライナの戦争で、戦争そのものがリアリティーを持ってしまっている中で、安全保障の問題も、外交努力を重視する国際平和主義のような側面を書き切れていない。平和をどのようにつくっていくのかという学びを促す観点を提示する必要もある。 (社会科教育学)