文部科学省が検定結果を公表した2025年度から中学生が使用する自由社(本社・東京)の社会・歴史教科書は、「非核三原則」の表明など核問題への取り組みが評価されてノーベル平和賞を受けた佐藤栄作元首相について、受賞理由を「沖縄の本土復帰」としている。ノーベル賞の公式サイトが公表している受賞理由では沖縄の本土復帰には触れられていない。21年度からの現行の教科書でも同様の記述があるが、前回に続き文科省から検定意見はつかなかった。
自由社の教科書では、戦後の高度経済成長に関する章で、「民族の再統一」がなったとして1972年の沖縄の日本復帰を取り上げた。関連項目で71年の沖縄返還協定に関わった佐藤氏の足跡にも触れ、「沖縄の本土復帰を実現」させたと説明。「その功績で」74年のノーベル平和賞を受賞したとした。しかし賞公式サイトは、佐藤氏の受賞理由について「環太平洋地域の安定化と核不拡散条約(NPT)への署名への貢献に対して」としている。NPT条約の署名と「非核三原則」の表明を功績とし「沖縄の日本復帰」は理由に挙げていない。
自由社の担当者は本紙取材に「(受賞)理由の『太平洋地域での安定化』の最も大きなものが当時不可能といわれた『沖縄返還』だった」とした。当時の報道でも同様の記述があるとし、妥当との認識を示した。文科省は2007年発刊の東アジアの国際政治に関する学術書の記述や、当時の新聞報道などを根拠とし「誤りではないと判断し検定意見は付けなかった」と回答した。(安里洋輔)