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【住民の声】「束縛感、戦前のよう」 土地規制法の説明なく権利を制限 復帰52年の節目、新たな負担 <歩く民主主義100の声~那覇区域編>


【住民の声】「束縛感、戦前のよう」 土地規制法の説明なく権利を制限 復帰52年の節目、新たな負担 <歩く民主主義100の声~那覇区域編>
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 土地利用規制法は、安全保障上重要とする土地について政府が調査し、利用を規制するものだ。2021年にできた。政府が土地所有者の個人情報を調べ、土地の利用中止を命じることもできる法律だ。

 「特別注視区域」に指定された那覇市小禄在住の70代女性は、「日本復帰の時に米軍基地は全部なくなると思っていたが、むしろ(基地負担が)強化されていて納得できない。この法律も負担増だ」と語る。同市金城在住の男性(88)も「この地域は市の区画整理でみんな苦労して家を建ててきたので思い入れが強い」と振り返り、「そのような土地を国に規制されるとすれば賛成はできない」と話した。

 1972年の日本復帰の際には基地負担も「本土並み」が求められた。「52年後の今、沖縄の基地負担は減っていると思うか、増えていると思うか」と100人に尋ねると、「減っている」は20人。「目に見えている範囲では返還で良くなっている」(安謝在住の19歳大学生男性)。そうした声があがる那覇市内でも、「どちらとも言えない」が44人、「増えている」も36人に上った。

 「増えている」と答えた会社員女性(47)=金城在住=は「県内での自衛隊や米軍の基地建設の動きをみると、中国などからの脅威を名目に、沖縄に日本の『壁』をつくっている印象を受ける」と話す。土地利用規制法の指定についても「国が個人を管理しているようだ。圧をかける行為自体が、沖縄を劣等的に扱っているように見える」と不快感を示した。

 政府は今回の地域指定で、県や市町村の異論を押し切った。例えば、嘉手納基地を抱える北谷町では町議会が法律の即時撤廃と臨時的対応を求める意見書を可決していたが、政府はほぼ全域を「特別注視区域」に指定した。

 「日本の政治が以前より米軍寄りになっている。沖縄戦で沖縄に大変な思いをさせたということを感じている人たちから、若い世代に変わってしまった」

 安謝在住の69歳女性は政府の姿勢を嘆くと同時に、沖縄の現状も憂えた。「戦争体験者がどんどん亡くなり、感覚が引き継がれていない」

 9~11日に実施した100人調査では、復帰前後に生まれた50代で安全保障を重視する意見が目立った。

 会社員の白玉春美さん(57)は「これ以上基地が減っても何かがあったときに怖い。軍事力も必要だ」。フリーランスの上原幸勝さん(56)も「(沖縄は)地理的にも中国に一番近い。本当は武器も基地もない方がいいのだが、今の安全保障の状況を考えると仕方がない」と語る。

 ただ、若い世代にも政府の施策への懐疑が芽生えている。

 大学生の男性(18)は土地利用規制について「理解はできても必要だと納得はできない。新しい事業をおこす際のしがらみになりそうに感じる」と指摘。「個人的なことまで調べられるとすれば、戦前のようで束縛感がある」と語った。

 「軍用地」になる懸念を口にした1人、安謝在住の女性(76)は鼓舞した。「うるま市の自衛隊訓練場計画のように、みんなではね返していくしかないよ」

 (藤村謙吾、中村優希、西田悠、小浜早紀子、名嘉一心、狩俣悠喜、南彰)


<用語>土地利用規制法

 安全保障の観点から米軍基地や自衛隊基地などの重要施設や、国境離島などの機能を妨害する土地利用を防ぐことを目的に2022年9月に全面施行された。施設の周囲約1キロを「注視区域」に指定し、区域内の司令部機能を持つ施設周辺は「特別注視区域」としている。特別注視区域で200平方メートル以上の土地を売買する際は事前の届け出が必要で、虚偽の届け出などをした場合は6月以下の懲役か100万円以下の罰金が科される。


■那覇市で100人に聞いた意見の一部(5月9~11日調べ、男女各50人)

【土地利用規制法の地域指定になることについて「知っている」】

 政府による土地利用の調査・規制を理解できる(6人)

 金城に住む女性(42) 安全保障のためなら致し方ない。

 小禄に住む男性(56) 今の安全保障の状況の中で、中国などが土地を買うと大変だから仕方がない。土地の価格がどうなるか気になる。

 政府による土地利用の調査・規制を理解できない(4人)

 金城に住む女性(57) 国の力が強まると逆に市民にとっては危ないのではないかと思う。有事の避難訓練も進められるなか、沖縄は今どれほど安全なのか気になる。

 宇栄原に住む女性(70代) 住民の耳に入らないところで法律などが制定され、住民の意思が全然政府に届いていない。

【土地利用規制法の地域指定になることについて「知らない」】

 政府による土地利用の調査・規制を理解できる(24人)

 久茂地に勤務する男性(49) 外国人の規制が現状ではできていないため。

 西に勤務する男性(53) 日本の土地は外国勢力が簡単に買えるので、調べるのは理解できる。本当は売買そのものを規制した方がいい。

 政府による土地利用の調査・規制を理解できない(30人)

 赤嶺に住む男性(64) 政府が民間人を調べることはあまりやってはいけない話だ。安全保障のためと言うが、網を掛けてはいけないところにまで掛けて調べるというのは問題だ。

 金城に住む男性(18) 新しい事業を起こす際のしがらみになりそう。個人的なことまで調べられるのは戦前のようで束縛感がある。

 金城に住む女性(23) 土地取引の手続きが面倒になるならなぜ法が必要になったのか説明してほしい。