トイレからは世相が見える、という独りよがりの持論がある。
入局当時、豊見城村にあった職場の女性用トイレには個室が二つあり、女性が少なかったため十分な数だった。18年前、職場が那覇市に移転してからは個室が三つに増えたが、時々、満員になる。紙がなくなり、むき出しで放置されたトイレットペーパーの芯を取り外し新たに補充することも頻繁になった。手間は増えたが、女性が増えたことへの感慨深さの方が上回り、芯を捨てるたびにしみじみとする。
家でのトイレットペーパーの交換は、その多くを私がするはめになっているが、2倍巻き、3倍巻きと、取り換える回数が少なくてすむ商品が次々に登場し、神様ならぬ紙様に感謝だ。出始め当初、売り上げが10%から約30%に伸びたというのも納得だ。
トイレから見て取れるのは、女性の社会進出だけではない。昨今は賛否の議論もある「褒めて育てる」という米国の学者が提唱した考え方は、子育てや人材育成だけではなく、トイレにも反映されているのではないかと、勝手な臆測を楽しんでいる。かつてのトイレの張り紙は、「きれいに使いましょう」という趣旨のものが多かった。いまは「きれいに使ってくれてありがとうございます」に変化している。きれいに使うことがさりげなく既成事実化されている上、褒められた気分にもなる。トイレに関して言えば、期待に応えたくなる見事な「心理作戦」だと思う。
学校のトイレも変わってきている。トイレに関わる企業でつくる「トイレ研究会」によると、学校での排便を我慢する子どもは少なからずいて、小児科医たちが「健康に悪影響を及ぼすことがある」と指摘し、便秘や腹痛を例に挙げているという。研究会がモデルケースとして紹介した本島中部の学校のトイレを取材すると、明るくゆったりとしていて、静かなBGMが流れていた。床が洗い流すタイプではなく拭くタイプで、じめじめしておらず、生徒の意見を聞いて改修されただけのことはあって「入りたくなる」空間だった。
公共施設のトイレには、DVや虐待の相談窓口が記載されたカードが置かれている。ある学校のトイレには、生理用品に困った場合、学校側が支給することを伝える張り紙があった。「生理の貧困」が課題になる中、子どもに配慮した取り組みに感心した。
先日、沖縄市で入った公共トイレには、男性用、女性用に加え「オールジェンダー」用があった。先月、供用開始になった首里の龍潭周辺の公共トイレも同様だ。
トイレからは「世相」だけではなく、「人にどう寄り添っているか」が見えるのかもしれない。トイレの「進化」から学ぶことは多い。
1970年生まれ、那覇市出身。92年NHK入局、沖縄局、首都圏放送センターで、沖縄戦、戦後処理、教育、旧環境庁、旧沖縄開発庁などを担当。NHKスペシャル「沖縄戦全記録」で日本新聞協会賞。