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なぜビデオリンクじゃなかったのか? 法廷で被害少女証言、識者は疑問視 代理人「検察側が提案」 米兵少女誘拐暴行裁判 那覇地裁 沖縄


なぜビデオリンクじゃなかったのか? 法廷で被害少女証言、識者は疑問視 代理人「検察側が提案」 米兵少女誘拐暴行裁判 那覇地裁 沖縄 那覇地裁(資料写真)
この記事を書いた人 Avatar photo 前森 智香子

 昨年12月に発生した米兵による少女誘拐暴行事件で、わいせつ誘拐、不同意性交の罪に問われた米空軍兵長の被告(25)=嘉手納基地所属=の第2回公判で、被害少女が法廷で証人尋問を受けたことに、専門家から疑問の声が上がっている。被害者側は検察側の提案だったとするが、専門家からは「法廷と別室を映像と音声でつなぐ『ビデオリンク方式』でやるべきだった」との意見が根強い。未成年の性犯罪被害者が法廷で直接証言するのは異例。

 「すみません、もう一度お願いします」。23日、那覇地裁で開かれた公判で、少女は何度もこう口にした。慎重かつ丁寧に答えようとする姿勢がうかがえた一方、性被害の具体的な行為に関する質問では、言葉に詰まり、息を深く吸い込んだり呼吸が乱れたりした。

 公判では、傍聴席や被告から少女が見えないよう、ついたてが設置された。午前10時に始まった検察側の主尋問は、休みなく約2時間続いた。2度の休廷を挟み、少女への尋問が終わったのは午後5時半ごろだった。

 刑事裁判では被告が罪を認めると被害者は出廷せず、供述調書を証拠とするのが一般的だ。だが、否認すると被害者の証人尋問が行われることが多い。今回の事件について被告は、少女を18歳と認識し、同意があったとして無罪を主張している。

 性犯罪被害者が証人となる場合、精神的な負担を軽減するため(1)カウンセラーなどがそばに座る「付添人」(2)遮蔽(しゃへい)(3)ビデオリンク方式―といった措置が認められている。今回は遮蔽措置のみ。第2回公判前から、多くの専門家らから懸念の声が相次いでいた。

 昨年活動を終えた、強姦救援センター・沖縄「REICO(レイコ)」元代表の高里鈴代さん(84)は、第2回公判前に、那覇地裁にビデオリンク方式を要望したという。かつて支援した米兵の性暴力事件の被害女性は、ビデオリンク方式で証人尋問を受け、レイコの相談員が付添人になった。女性は証言中に震えていたといい「被害を語るのは本当に過酷なこと。遮蔽された狭いスペースで長時間証言した少女は、どれほど孤独でつらかっただろうか」と思いやった。

 ビデオリンク方式を選択しなかった理由について、被害者側の代理人弁護士は、検察側から法廷での証言を提案されたとし「年齢の認識が争点となっているため、被害者を裁判所に見てもらいたいとの検察の立証趣旨で、本人も説明を理解した」と述べた。

 公判を傍聴した琉大法科大学院の矢野恵美教授(被害者学)は、「ついたてがあっても、法廷内の注目が自分に集中していることは被害者にダイレクトに伝わる。休憩も少ない中で、よく最後まで証言した」と話す。少女の姿を裁判所に示す必要があるのかと疑問視し、「被害者の年齢や裁判の内容を考慮すると、ビデオリンク方式にし、付添人もつけることが望ましかった。被害者の負担軽減のための制度が、どの程度説明されたのか懸念が残る」と指摘した。
 

(前森智香子)