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【記者解説】県民一人一人に責任 県ハンセン病シンポジウム 「当たり前」の社会生活へ 沖縄


【記者解説】県民一人一人に責任 県ハンセン病シンポジウム 「当たり前」の社会生活へ 沖縄 イメージ
この記事を書いた人 Avatar photo 佐野 真慈

 県ハンセン病問題シンポジウムでは、社会が回復者とその家族に刻み込んだ心の傷の深さと差別への恐怖、ハンセン病問題が今も解決していない現状が改めて示された。回復者や家族の「ハンセン病を心で受け入れてほしい」との訴えは行政だけでなく、われわれ一人一人に突き付けられている。

 差別と偏見への恐れから、「当たり前」の社会生活が送れない回復者と家族の現状を変えたいとの当事者らの強い思いが行政を動かし、シンポジウムの開催につながった。原動力はひとえに回復者とその家族が大手を振り堂々と歩ける社会にしたいとの強い思いだ。

 地域で暮らす回復者の多くが後遺症を抱えるが、病歴を明かせず、地域の医療機関を受診しないまま悪化させることも多い。高齢化が進む中、家族を守るために距離を置き、単身で暮らす回復者が同じ理由で行政福祉を利用できず生活困難に陥っている状況もある。

 家族も同様に息を潜めて暮らしている。2019年、ハンセン病家族訴訟の原告勝訴判決を受けて施行された家族補償法は、回復者の親や子、配偶者らに補償金支給を定める。対象は全国で約2万4千人と推計されるが請求は7千件超にとどまる。請求により周囲にハンセン病回復者の家族であることを知られることへの恐怖が背景にある。

 患者の強制隔離を定めた「らい予防法」廃止から28年。国賠訴訟、家族訴訟で回復者や家族は勝訴した。国は過ちを認め謝罪し名誉回復を誓ったが、現状は変わっていない。シンポジウムに登壇した神谷正和さんの「県は患者の強制隔離に費やした以上の力を注ぎ、回復者と家族が安心して暮らせる方策をとらねばならない」との言葉は重い。行政そして、社会を形成する私たち県民にも責任があることを自覚し、当事者として向き合い続ける必要がある。 

(佐野真慈)