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「公務外」で補償対象外に 日米地位協定 米兵犯罪、被害者負担重く<衆院選・争点の現場から>7


「公務外」で補償対象外に 日米地位協定 米兵犯罪、被害者負担重く<衆院選・争点の現場から>7 イメージ
この記事を書いた人 Avatar photo 安里 洋輔

 「頭の中に事件のことがこびりついているんだ」―。沖縄市の宇良宗之さん(40)は2012年に亡くなった父、宗一さん=享年(63)=の言葉が今も忘れられない。タクシー運転手だった宗一さんは08年1月、勤務中に強盗被害に遭った。県警が強盗致傷容疑で逮捕したのは、米軍普天間飛行場に所属する20歳と19歳の海兵隊員だった。事件後、明るく社交的だった宗一さんの様子は一変した。仕事柄、米軍基地内に出入りして米兵との交流にも積極的だったが、「米兵への嫌悪感をあらわにするようになった」。

 米兵2人には08年6月、那覇地裁で実刑判決が下ったが、事件によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんだ宗一さんは補償を受けられないまま死去した。

 救済の道を阻んだのは日米地位協定の壁だ。

 地位協定18条5項は、米兵の「公務中」の事件事故については日米両政府が被害者補償をすると定める。ただ、同じ米軍絡みでも、宗一さんが見舞われた「公務外」の事件事故は対象外。賠償責任を負うのは、あくまで米兵個人とされ、米側からはわずかな「見舞金」が支払われるのみだ。

 1996年には、地位協定の運用改善として、裁判所で確定した賠償額と米側の「見舞金」の差額を日本政府が支払う「SACO見舞金」の制度が創設されたが、課題はなお残る。

 米軍関係の事件・事故に多く関わる新垣勉弁護士は「賠償額を確定させるためには加害者に損害賠償を求める訴訟を提起し、裁判所の判決を得る必要がある。米兵の身元も自力で特定しなければならない。被害者の負担は重い」と指摘する。

 宇良さんは米兵2人に損害賠償を求める民事訴訟を遺族として提起。2018年、那覇地裁沖縄支部は約2642万円の支払いを命じた。だが、沖縄防衛局は賠償額に遅延損害金が含まれることを理由に補償を拒んだ。「事件からもう10年以上たつ。父を思うと、この時間を無にすることはできない」

 地位協定改定は衆院選でも争点になっている。「壁は厚いが、少なくとも公務の規定については見直してほしい」

 宇良さんは19年、国に遅延損害金を含む補償の支払いを求める訴訟を提起した。22年の那覇地裁判決、23年の福岡高裁那覇支部判決は共に訴えが退けられた。それでも「諦めるつもりはない」。上告し、現在は申し立てが受理されるかどうか司法の答えを待つ。

 宇良さんは「僕や父のためだけの裁判ではない。地位協定があることで泣き寝入りせざるを得ない被害者が無数にいる」と拳を握りしめた。

 (安里洋輔)

 (おわり)