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【深掘り】「沖縄県はもう、策はないだろう」国、移設へ前のめり 辺野古の代執行訴訟 「期限」翌日に提起


【深掘り】「沖縄県はもう、策はないだろう」国、移設へ前のめり 辺野古の代執行訴訟 「期限」翌日に提起 代執行訴訟を提起するため、福岡高裁那覇支部に入る国側の職員=5日午前11時14分ごろ、那覇市樋川(ジャン松元撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古の新基地建設を巡り、政府は県の代わりに大浦湾側の設計変更申請を承認できるようにする代執行訴訟を起こした。国土交通相が承認するよう求めていた期限の翌日の5日だった。国が代執行で地方自治体の決定を覆せば、国と地方の関係は対等だと定めた2000年の地方分権改革後で初。前代未聞の展開となる。どんな手段を使ってでも移設を進める政府の前のめりな姿勢が改めて鮮明となった。

 9月4日の最高裁判決以降、政府・与党内では玉城デニー知事が自ら承認する期待感もあり、玉城県政を刺激して可能性を狭めないよう情報を収集しながら慎重に対応してきた。だが、承認しないまま期限を迎えたことを受け、政府は間髪入れず代執行訴訟に踏み切った。
 玉城知事は承認か不承認かを明言せず「期限内に判断できない」としている。判決の否定は避けた格好だが、防衛省関係者は「法的効果は不承認にしたのと同じだ」と一蹴した。

 政府としては代執行訴訟は当然に勝訴するものとみており、すでに軟弱地盤という最大のハードルを法的には乗り越えたという認識だ。政府関係者は「防衛省も細心の注意を払って事業を進めてきた。今更足をすくわれる要素はない。県はもう策がないだろう」と余裕を見せた。承認が得られて工事の準備が整えば、速やかに着工して計画通り進めていく考えを示した。

 5日未明に米国防総省で開かれた日米防衛相会談でも両政府は辺野古移設を含む米軍再編の取り組みを引き続き推進する方針を確認した。

 一方、00年の地方分権改革で国と地方の関係は対等だと定められており、代執行制度は例外的な最終手段として設けられている。翁長雄志知事時代の2015年に承認の取り消しは違法として代執行訴訟を提起したが、国と県の和解で取り下げた。地方分権改革前の制度下では類似の制度利用があったが、今回の訴訟から実際に代執行へ至れば改革後で初の事例となる。

 代執行訴訟に立ち向かうことになる県庁内では、論点がこれまでの裁判よりも絞られてくることから、厳しい結果になるとの見方が強い。一方で、代執行訴訟という全国的にも異例の手法に国が訴えたことで、改めて辺野古問題について関心を集めることができるのではないかとの期待もにじむ。

 県幹部の一人は、代執行訴訟は地方の意思を無視して事業を進めようとする国の強硬姿勢がより強まることになるとし「国が一番やりたくないのが代執行ではないか。追い風にしていかなければいけない」と気を引き締めた。

 与党県議は「代執行訴訟となれば、そこでまた、設計変更申請を不承認とした県の正当性も堂々と主張できる」と前を向く。「国が着工を強行するのは変わらない。だったら、訴訟での国の出方をまずは見てみよう」と語った。

(明真南斗、知念征尚、佐野真慈)