有事の際に、宮古・八重山地方の住民ら12万人を九州に避難させる「図上訓練」などを沖縄県が実施する中で、受け入れ先とされる九州の自治体と協議が始まってないことが16日までに分かった。県防災危機管理課は「想定の一案だ。(受け入れ先となる場所と)調整はしていない」と述べた。避難計画は内閣官房が基本方針を立てており、国は具体的な避難場所に加え、期間や予算も算出していない。国から12万人の避難という計画が“丸投げ”された状態で、実効性を伴わない訓練計画だけが一人歩きしている。
沖縄へ「戦う覚悟」強制 石原昌家(沖縄国際大学名誉教授)
国民保護計画にのめり込んでいけば、県政の立場が問われる。国民保護法が定められた時点で「軍官」一体になってしまったが、今のところ県職員の言葉には、戦争にはくみしないという抵抗の意思を感じる。図上訓練より先に進めば、次の段階になってしまう。
自民党の麻生太郎副総裁が8月に日本と米国、台湾に「戦う覚悟」が求められていると発言した。1944年のサイパン陥落を受け、閣議決定で沖縄から九州と台湾に10万人の疎開が進められた。疎開は本土決戦を見据えた、将来の戦闘員確保の目的もあった。今回の疎開は「戦う覚悟」にのっとって、国民に避難を強いるものである。
沖縄戦を体験した沖縄として、戦争国策にのっかってはいけない。しかし、沖縄の中でも諦めのような雰囲気が醸成され分断されつつある。戦争体験者から聞き取りをしてきた者として住民保護計画は看過できない。本土側が「戦う覚悟」を強いてきても、沖縄側が絶対に戦争を拒絶する不退転の決意を持たないと阻止できない。
(社会学・平和学)
全住民、九州避難は困難 福田充(日本大学危機管理学部教授)
危機管理の鉄則としてリスクマネジメントが重要だ。事態を予測した事前準備に注力するべきであるが、政府ではどのような状況が避難などを伴う「予測事態」であるのか議論が進んでいない。訓練は重要だが、その前に住民が納得する説明が必要である。
事前準備は「不安をあおる」との声もあるだろうが「台湾有事」「北朝鮮有事」などは発生する可能性は高まっている。決してあおっているわけではない。
有事発生後の住民避難はまず不可能だ。世界的に見ても多くの犠牲が出ている。平常時にこそ、時間をかけて冷静に議論を重ねることができる。安全保障は一つの県だけで決められる話ではない。当然、国が主導で進めるべきだ。
輸送力や生活保障などを考えても先島諸島の全住民の九州避難計画は極めて困難な状況だ。島外避難ありきではなく、シェルターなど島内で安全確保する議論も選択肢の一つだ。
ただ訓練するのではなく、残された課題の一つ一つに向き合い検討すべきだ。
(国民保護論)