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【深掘り】国の有事対応、各県任せ 先島避難計画、「モデルケース」策定に躍起の政府 住民から「机上の空論」批判


【深掘り】国の有事対応、各県任せ 先島避難計画、「モデルケース」策定に躍起の政府 住民から「机上の空論」批判
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 有事に宮古・八重山地方の住民ら12万人を九州に避難させる計画策定に、国が動き出した。松野博一官房長官は17日、九州地方知事会の会長を務める蒲島郁夫熊本県知事を訪ね、「九州は非常に重要な地域だ」と協力を仰いだ。ただ、輸送手段や滞在施設の確保など、山積する課題解決の取り組みを各県に求め、国は「(それを)支援する」として、依然各県任せの姿勢が強い。

 国は昨年末に改定した安全保障関連3文書で、住民避難について「速やかな計画策定」を盛り込んでおり、今回の九州入りはその一環だ。

受け入れ先、手つかず

 宮古や八重山地方の対象住民などから、実効性を伴わず「机上の空論」と批判されていた避難について、国は2024年度までに「一定のモデルケース」構築に向けて策定を急ぐ様子が見える。

 松野氏の要請に対し、蒲島知事は「国民保護の拠点として役割を果たしたい」と応じた。しかし、受け入れ先となる九州各県は手つかずの状態だ。熊本県の担当者は避難の長期化も想定され「生活基盤を整える必要が出てくる」と対応の難しさを語った。

 18日には鹿児島県庁で塩田康一知事と面談。住民受け入れの「重要な窓口となる」(松野氏)として、計画推進を促したが、20分間の面談では、これまで公表されている以上の受け入れ人数や輸送手段について、目新しい話はなかった。

 九州のほかの県も取材に対し「現状では具体的な計画はない」(福岡県、佐賀県)、「国の指示を待つ」(長崎県)と回答している。

抑止力の一方、避難想定

 多良間島や与那国島で開かれた住民説明会では平和外交を求め、避難を拒否する住民の声も相次いだが、その思いに反して政府は南西諸島の自衛隊の増強を進める。松野氏は一連の動きは抑止力を高め「武力攻撃の可能性を低下させる」と述べている。

 政府は「抑止力が高まる」としつつ、他国からの武力攻撃を想定した住民避難の具体的計画は各県任せのままだ。危機管理に詳しい日本大危機管理学部の福田充教授(国民保護論)も全住民避難の難しさを挙げ「島内での安全確保を探るべきだ」と指摘している。

 住民、識者が難しさを訴え、受け入れ先とは未協議の中、来年1月には「武力攻撃予測事態」を想定した訓練が熊本、鹿児島の両県で合同で行われ、沖縄県でも予定されている。

(新垣若菜)