沖縄県内11市でつくる県市長会(会長・桑江朝千夫沖縄市長)が県と共同で実施していた沖縄関係予算確保に向けた国庫要請について、単独で行うことを決めた。首長らの中には、名護市辺野古の新基地建設を巡り、国が県に代執行訴訟を提起するなど対立が深まっていることや、近年ハード事業の一括交付金が減額した影響で各市内の道路整備などが進まないといった不満がある。一方、識者からは市長会の行動は全体的な沖縄の利益にはつながらないとの指摘も上がる。
沖縄関係予算の減少傾向を受け、県と県市長会、県町村会(会長・宮里哲座間味村長)は2021年8月から3者連名で国庫要請を実施していた。
首長らからは「辺野古の問題をはじめ、(国と県が)対立している訳だから同じテーブルで話をしてもうまくいかないんじゃないか、というのは自然な考え」(渡具知武豊名護市長)、「目に見えて遅れているのが道路事業だ。止まっている事業がたくさんある。経済効果や波及効果を含めると損害は大きい。土地利用の考え方に影響する」(徳元次人豊見城市長)などと声が上がった。
桑江会長は22年11月に県町村会と連携して岡田直樹沖縄担当相(当時)に、県を通さず市町村や民間へ直接交付できる国直轄の「沖縄振興特定事業推進費」(推進費)の増額を要請し、予算増につながったと実績を強調する。
松川正則宜野湾市長は「今回の考え方は、県と市長会の2本立てで要請するという意味合いだ。一括交付金などの振興予算は県全体のこととして県に動いてもらう。推進費など各自治体にもらう予算は市長会から増額要請をする」との見方を示した。
一方、町村会は今回も県と共同で要請する方向だ。市長会でも一部から県との共同歩調を求める声もあったが、県政に批判的な保守系首長でつくる「チーム沖縄」が市長会の動きを主導した格好だ。
推進費は内閣府がソフト事業の一括交付金の補完を目的に19年度に創設した。県と市町村が協議をした上で配分額を決める一括交付金とは異なり、国は県を通さずに市町村に直接補助する。
ある県関係者は、推進費は国が補助事業を選ぶが、一括交付金は沖縄側が自由に使途を決められるメリットがあると説明する。「推進費は道路整備には使えないし、たとえ増額されてもその分一括交付金にしわ寄せがいくのが目に見えている。自由度が高い一括交付金の予算獲得を目指す方が市町村も含めて皆望んでいるはずなのに…」と語った。
一括交付金と推進費の関係性を分析し、問題点を明らかにした論文を執筆した沖縄国際大の宮城和宏教授(経済学)は「推進費は政府裁量が大きく、『沖縄の自主性を尊重』とうたった沖縄振興特別措置法の理念に当てはまらない。推進費への支持が集まると政府に従順な姿勢をみせる自治体だけが予算を獲得することになる」と指摘する。その上で、自治体間の「予算ぶんどり合戦」が進み、短期的に得をする自治体がいても長期的に沖縄全体では必ずしも利益が高まるわけではないと説明。「推進費などの予算補助を廃止し、沖振法の理念に沿った一括交付金に予算を集約することが本来の在り方だ」と話した。
(梅田正覚)