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いつ帰れる、ストレスに 能登 中学生集団避難 地元残る生徒は学習不安


いつ帰れる、ストレスに 能登 中学生集団避難 地元残る生徒は学習不安 集団避難で注意すべき主なポイント
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 被災した子どもの学習機会確保に向け、能登半島地震で甚大な被害が出た石川県で17日、中学生の集団避難が始まった。受験勉強などのため親元を離れる輪島市の生徒258人は約100キロ先の施設で生活することになり、心のケアは必須。地元に残ると決めた家庭からは学習支援に不安の声が漏れる。異例の避難に自治体も国も手探りの状態で、課題は山積する。 (1面に関連)

不安6割

 輪島市立輪島中3年の大向結依子さん(15)は同日午前、母裕子さん(47)にぎゅっと抱きしめられてから避難先の同県白山市に向かうバスに乗り込んだ。「不安が6割。でも、高校受験に専念できるから」。自宅は無事だったが、断水が続いて学校の授業もない。迷った末に決断した。
 父正浩さん(50)は、結依子さんから笑顔が消え、勉強に身が入らないように感じていた。「寂しいだろうけど、ここにいるよりはましだ」と考え、送り出すと決めた。
 輪島市は集団避難を約2カ月と想定するが、学校再開のめどは立っていない。避難先での授業場所は決まったものの、いつから始まるのか不明確なままでの出発となった。

延長へ心構え

 急きょ決定した共同生活の最優先課題は、生徒が安心できる環境づくりだ。2000年の伊豆諸島・三宅島の噴火で児童生徒が集団避難した状況を知る東京都立三宅高の元校長松尾駿一さん(80)は「見通しがつかないことへのストレスが大きな問題になる」と語る。
 避難当初は小中高校生約360人が東京都あきる野市で寮生活をし、授業を受けた。10日ほどで帰れるとの期待もあったが、半年、1年と延び、人数を減らしながら約4年半続いた。
 松尾さんは「避難が延びるたびに生徒も教員も落胆した。今回も『2カ月で終わらないかも』との心構えが必要だろう」とみる。集団生活では、友達の知らなかった一面が見えて仲たがいにつながることもあるという。カウンセラーがいるだけでは誰も相談に行かないため、悩みを打ち明けやすい雰囲気を醸成することも重要だとする。

全国から教員を

 「慣れない環境に行くより家族といたい」と話す輪島市立門前中3年横道裕紀さん(15)は、避難所で中1の弟と勉強を続ける。友達が集団避難に参加しないので残ることにした。今後の学習の進め方について学校から連絡はなく、輪島市担当者も「遠隔授業をするのかプリントを配るのかなど決まっていない」と説明する。
 横道さんの母親(48)は「衛生面などを考えても白山市に行ってほしかった。学校再開のめどが立たないから勉強が心配」と打ち明ける。
 文部科学省は、被災地向けに学習用デジタル端末約1500台の無償貸与を表明した。省幹部によると、輪島市や周辺では、小学生向けなどを含め避難所や自宅で遠隔授業を受けられるように調整が進んでいる。
 防災教育学会会長の諏訪清二・兵庫県立大客員教授は、被災地にとどまる子どもにも、デジタル端末による遠隔授業などで集団避難と同程度の学習環境を整えるべきだと強調。「教員も被災しており、全国から教員を送って勉強を教える仕組みが必要」とも指摘する。
 さらに「避難した子は『被災地を離れてしまった』と自分を責めるかもしれない。残った子との間に壁ができる恐れもある。常に行き来できて、お互い顔を合わせる機会をつくる努力が欠かせない」と訴えた。