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またも「しっぽ切り」 /自民裏金捜査  客観証拠乏しく/「連座制を」強まる声   


またも「しっぽ切り」 /自民裏金捜査  客観証拠乏しく/「連座制を」強まる声    自民党派閥の政治資金パーティー事件の刑事処分
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 自民党安倍派(清和政策研究会)の裏金事件で東京地検特捜部は19日、歴代事務総長ら派閥幹部を立件しなかった。資金還流の中止が撤回された経緯に着目し、国会議員の関与を見据えて捜査を進めたが、客観証拠に乏しく共謀の立証を断念。過去の政治資金規正法違反事件と同様に「トカゲのしっぽ切り」の様相となった。立件のハードルは高く、議員が連帯責任を負う「連座制」導入を求める意見も強まる。 (1面に関連)

会長案件
 派閥幹部の立件に向け、特捜部が注目したのが2022年の政治資金パーティー券売り上げの還流中止を巡る議論だった。同年2月、派閥会長だった安倍晋三元首相の意向を受け、20年以上前に始まった還流の取りやめが幹部間で検討された。還流が当たり前になっていた所属議員にとって、中止は死活問題。浮足立つ派内の実務を取り仕切っていたのが、当時事務総長だった西村康稔前経済産業相だ。
 約5カ月後に安倍氏が急逝すると、幹部らが協議し、秋ごろに還流中止を撤回。事務総長は現職の高木毅前国対委員長に代わっていた。
 協議の推移から、特捜部は少なくとも西村氏が還流に伴う虚偽記入の違法性を認識していた可能性があるとみたが、会計責任者の松本淳一郎被告(76)らへの事情聴取を通じて浮かび上がったのは「会長―会計責任者」の指示ラインだった。歴代事務総長らも還流は「会長案件だった」と口をそろえ、不正への関与を真っ向から否定した。
 自民党関係者は「次期会長や首相を目指す事務総長に、各議員の集金力に関する情報を与えたくなかったのだろう」と会長の立場を推測する。ただ、時効にかからない18年以降に会長を務めていた細田博之前衆院議長と安倍氏はいずれも死去。捜査は事務方のみの立件にとどまった。

ハードル
 規正法が政治資金収支報告書の提出義務を課すのは、実際に政治資金を集めたり使ったりする政治家ではなく、各団体の会計責任者だ。団体の代表である政治家の立件には高いハードルがあるとされ、過去の規正法違反事件の多くも事務方が立件されたに過ぎない。
 小沢一郎衆院議員の資金管理団体「陸山会」の土地購入を巡る規正法違反事件でも起訴され、有罪となったのは元秘書らだった。
 小沢氏は検察審査会の議決を経て強制起訴され、公判で収支報告書について「秘書任せだった」と主張。東京地裁は、小沢氏が報告を受けて了承していたと認定する一方「虚偽記入までは想定しておらず、故意があったと認めるには疑いが残る」として無罪判決を言い渡した。議員が違法と認識していたことを示す客観証拠がなければ、共犯には問えない―。検察関係者は判決が一つの基準を示したと解説する。

抑止効果
 裏金事件を受け、公明党の山口那津男代表は「(再発防止に向け)連座制は一つの手段だ」と発言。派閥の在り方を議論する自民党政治刷新本部も罰則強化の検討に入った。いずれも、事務方が有罪となった場合に議員が自動失職する公選法が念頭にあるとみられる。
 元検事の村上康聡弁護士は「収支報告書の不記載は有権者をだましていることと同じだ」とし「議員が会計責任者に十分な指導監督をしていなかったという責任を連座制で問えば国民は納得するし、抑止効果もある」と提案する。罰則の対象を会計責任者から議員に変えるドラスチックな改正も一つの手だと語った。