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再発防止、答え見えず 京アニ放火殺人 死刑判決 被告 妄想最後まで 「孤立解消」社会に課題


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 京都アニメーション放火殺人事件で京都地裁は25日、青葉真司被告(45)に死刑を言い渡した。「アイデアを盗作」「闇の人物」。公判で被告が語った動機は最後まで妄想や論理の飛躍が目立った。遺族らは再発防止を願い、事件から社会が教訓を得ることを願うが、答えを導くのは容易ではない。 (1面に関連)

逆なで
 「被告人を死刑に処する」。極刑宣告にも被告は表情を変えず聞き入った。
 法廷で被告や弁護側が説明した事件に至る経緯は(1)京アニの小説コンクールに応募したが落選(2)アイデアを盗用された(3)落選や盗用の背景には「闇の人物」の意向があった(4)京アニと闇の人物を消滅させるため京都へ―というものだ。
 被告は公判を通じ、一貫して盗作の主張を訴え続けた。判決は、妄想性障害によるものであり「妄想を解消できずにいるのは無理からぬところがある」と指摘した。
 一方で、遺族の意見陳述など公判は自身の行為を振り返る大きなきっかけとなり得たのに「自分のしたことの大きさから目を背けたり、遺族感情を逆なでするような発言をしたりした」と批判。被害に「十分向き合えていない」と非難した。

議論不十分
 遺族らは、被告の説明に「悲しみ、苦しみ、悔しさは一層深く、憎しみ、恨みはさらに強くなった」(娘を亡くした遺族)と憤った。納得できる動機が得られず「せめて今後同様の事件が起こらないようにしてほしい」と願った。
 法廷での意見陳述で「量刑だけでなく再発防止に何ができるか考えて」と呼びかけた寺脇(池田)晶子さん=当時(44)=の夫(51)は判決後、公判における再発防止の議論は不十分だったとした上で「裁判もこれから変わってほしい」と望んだ。
 法曹界で「刑事裁判は社会を考える場ではない」とする考えは根強いが、凶悪事件の弁護経験があるベテラン弁護士は「事件を通じ、世の中がどうあるべきか考えることは重要だ」と指摘する。

孤立
 事件の背景には、経済的な困窮や妄想による社会からの孤立が指摘されてきた。
 被告は職を転々とした中で強盗事件を起こして服役し、刑務所で精神疾患があると診断された。2016年出所後は、国の再犯防止制度の一環で訪問介護などの福祉サービスを受けたが、自ら支援を断ち切り、犯行に及んでいた。判決は訪問介護などを打ち切ったのは、最終的には「人間関係で嫌なことがあれば関係を切る」という被告の考え方が影響したと認定。非難を減じる事情にならないと批判した。
 一方で、判決後に会見に応じた裁判員の女性は「今回に限らず、妄想性障害などに本人が気が付いていないこともある。放っておくと悪い方向に行く。諦めずに関わることが大切」と寄り添う姿勢の重要性を語った。
 孤独・孤立対策の政府有識者会議メンバーを務める早稲田大の石田光規教授(社会学)は、今回の判決のように孤立に悩む人を「自分から人間関係を断ち切った」などと自己責任論で切り捨てる風潮を懸念。「そうした人たちが社会に入っていける居場所づくりが必要だ」と訴える。

反省促すため治療必要
 国立精神・神経医療研究センター病院の平林直次医師の話 妄想性障害のある人は、治療の過程で、自分が病気だということを認識し、妄想の影響で誤ったことをしたと理解することで初めて、被害者と向き合うことができる。裁判で責任を問われても、自身の非を認めることは難しいだろう。青葉真司被告に反省を促すため、まずは適切な治療が必要だ。また、虐待やいじめなど、青葉被告と同じような境遇の人の孤立を防ぐため、周囲と信頼関係を構築できるようなサポート体制の整備も求められる。

丁寧で、説得力ある判決
 元裁判官の水野智幸法政大法科大学院教授(刑事法)の話 犠牲者数といった結果の重大性のみならず、遺族の苦しみも丁寧にくみ取った説得力のある判決だ。一方、被害感情への言及は抑制的にまとめられており、「遺族の話に過度に影響されたのではないか」との批判を避ける意識が働いているようにも見える。責任能力と量刑を分けて審理した点も、感情に流されずに判断したことを示す上で意味があった。今後も死刑が焦点となるようなケースでは、こうした方法が導入されることが考えられる。