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トラブル多発に危機感 医療現場「さらに混乱」 安全網 撤回求め


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 健康保険証を廃止し、今年12月にマイナンバーカードに統合する方針を政府が堅持している。岸田文雄首相は「不安払拭が前提」と強調し、統合に向け各地の病院に態勢整備を進めるよう求めている。ただ、医療関係者を中心に反発が強まっており、地方議会でも問題視する声が相次いでいる。
 「協力をお願いします」。寒風吹きすさぶ大分市のJR大分駅前で25日夕、地元の医師ら数人が帰路を急ぐ通行人に、健康保険証廃止の撤回を求める署名記入を呼びかけていた。
 大分県保険医協会によると、マイナ保険証の導入以降、読み取り機でエラーが出るなどして使えない事例が多数発生。関連トラブルで患者にいったん医療費10割を請求したケースも起き、医療関係者は危機感を募らせているという。同協会の福井利法会長は「この状況で健康保険証が廃止されれば、医療現場はさらに混乱する」と政府方針を批判した。
 厚生労働省によると、昨年12月時点で全国の病院や薬局の約9割でマイナ保険証の利用が可能になっているが、同12月の利用率は4・29%にとどまった。保険証情報のひも付け誤りなどトラブルが相次ぎ、国民不信が高まったことなどが低迷の背景にあるとみられる。
 札幌市議会が昨年10月末に可決した意見書は「健康保険証が廃止されると、資格確認書の更新漏れなどにより保険診療を受けられなくなるといった懸念がある」と指摘。福島県喜多方市議会が昨秋まとめた意見書は「事実上のマイナンバーカードの強制取得につながりかねない」と批判した。
 一方、統合の旗振り役を務める河野太郎デジタル相は昨年12月22日、各地の医療機関や薬局から利用を断られ、使えなかった場合は国に情報提供するよう呼びかけた。
 河野氏は、患者が受診時に「紙の保険証を持ってきてほしい」と言われ、マイナ保険証を利用できなかったとの問い合わせが寄せられているためと説明したが、交流サイト(SNS)ではマイナ保険証利用に積極的でない病院などの「通報」を求めたものと受け取った人から批判が相次いだ。
 福岡県議会に保険証存続を求めて請願した、福岡県歯科保険医協会の七里正昭さん(37)は「マイナ保険証でトラブルがあっても、現行保険証がセーフティーネットとなり、対応できている。存続が必要だ」と訴えた。