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南シナ海の「猛者」起用 尖閣 中国が退去警告 空域でも日本とせめぎ合い


社会
南シナ海の「猛者」起用 尖閣 中国が退去警告 空域でも日本とせめぎ合い 尖閣諸島(2013年撮影。共同通信)
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中国海警局が尖閣諸島周辺の日本領空を飛ぶ自衛隊機への退去警告という、あからさまな行動に乗り出した。南シナ海で強硬措置に携わった経験を持つ「猛者」を幹部に起用したことも判明。尖閣周辺を飛行する中国機も増加しており、日本とせめぎ合う。偶発的衝突への懸念は拭えない。 

  >>【関連】尖閣で自衛隊機に中国が退去警告 習主席の指示か

戦歴

昨年11月29日、上海にある海警局東シナ海海区指揮部会議室に向かう通路。軍最高指導機関、中央軍事委員会のトップを兼ねる習近平国家主席の背後を無表情で歩く海警局幹部の姿があった。
 同指揮部司令に就任したとみられる王喜武氏。南シナ海の西沙(英語名パラセル)諸島で2014年に中国が石油掘削施設の設置を強行した際、施設の警護任務に当たったとされる。ベトナム公船と衝突を繰り返した「華々しい戦歴」(関係者)を持つ猛者だ。
 「領土主権と海洋権益を断固として守らなければならない」。会議室で幹部らにげきを飛ばす習氏に時折視線を向けながら、王氏はメモを取る手を止めなかった。中国人研究者は、王氏は「何があろうと任務を貫く強い意志が上層部に高く評価されている」との見方を示した。

急増

 日中両国は空域でもせめぎ合う。日本政府による尖閣国有化の翌13年から航空自衛隊の緊急発進(スクランブル)回数は急増。11年度に425回だったが、16年度には2倍超の1168回に跳ね上がる。22年度も778回と高水準が続き、うち7割超は中国に対し実施したものだった。空自の負担は増し、日本政府関係者は「全く気が抜けない」とこぼす。
 昨年、海警局艦船が尖閣周辺で確認された日数は年間で計352日に上り、12年の国有化以降の最多を更新した。中国軍のシンクタンク軍事科学院関係者は「日本が国有化で先に現状変更を図った」と訴える。「尖閣は古来より中国の領土であり、絶対に譲れない」と強調した。

疑問

 日中両国は昨年5月、防衛当局幹部間を直結するホットライン(専用回線)の運用を始めた。不測の事態を回避するための相互通報体制「海空連絡メカニズム」の柱だ。07年に当時の安倍晋三首相と温家宝首相が合意してから16年を経て運用開始にこぎ着けた。
 ただ、北京の外交筋は「実際に偶発的な衝突が起きれば、双方引けなくなるのは目に見えている」と語り、その実効性に疑問符を付けた。 (北京共同=福田公則)