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防衛装備移転とリアリズム 十分審議し国民的合意を<佐藤優のウチナー評論>


防衛装備移転とリアリズム 十分審議し国民的合意を<佐藤優のウチナー評論> 佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 殺傷能力のある日本製兵器をどこにでも売ることこそが国益だというような乱暴で勇ましい発言をする人が愛国者であると、筆者は考えない。外交・安全保障政策において重要なのはリアリズムだ。この点、暴走気味の自民党国防族にブレーキをかけているのが連立与党の公明党だ。

 岸田文雄首相は日英伊で共同開発する次期戦闘機の第三国輸出について自公両党が2月中に結論を出せと要請した。にもかかわらず、首相が指定した期間内に結論が出なかった。公明党が激しく抵抗したからだ。

 <自民党の渡海紀三朗、公明党の高木陽介両政調会長は(2月)28日、次期戦闘機を含め国際共同開発する防衛装備品の第三国輸出を巡り国会内で協議した。輸出の必要性や日本の安全保障上の意義を議論し「距離が縮まった」(両氏)が、今後も輸出について国民の理解を得る努力を続けることを確認した。政府が求める今月中の合意は断念し、話し合いを継続するとした>(2月29日、本紙朝刊)。

 岸田首相の強い要請であっても、平和を脅かすリスクがある問題について、慎重な協議を要請する公明党の姿勢に筆者は共感を覚えている。公明党の主張は一般のマスメディアではあまり紹介されないが、筋が通っている。

 <国際共同開発品の日本からの第三国移転を巡っては、山口代表が(2月)15日、東京都新宿区の党本部で開かれた中央幹事会で、日英伊で次期戦闘機を共同開発する方針を決定した一昨年末の議論を振り返り、「完成品の第三国輸出はしないという前提で決めた。これは政府も認めている。それがその後、輸出する方向にどう変わっていったのか、政府の説明が十分になされておらず、公明党は国民の理解を求める必要があると伝えてきた」と力説。「国民に理解を求めることを政府がどう受け止め、努力、説明するかが重要だ」と述べました。/石井啓一幹事長も16日に国会内で開かれた記者会見で「仮に第三国輸出を認めるとしても、従来の『防衛装備移転三原則』をなし崩しにし、殺傷能力を持つ武器をどんどん輸出することにならないよう一定の歯止めが重要ではないか」との見解を示しました>(2月18日「公明新聞」)。

 山口氏が言う通り、3国で共同開発する次期戦闘機についても、開発を決定した時点では、完成品の第三国輸出はしないことになっていた。おそらくこの約束を維持していては、日本が受注する戦闘機の数が少なくなり、開発の過程でイギリスとイタリアに対して日本の防衛産業が主導権が取れなくなるという懸念があるので、政府は方針転換を考えているのだと思う。

 また、戦闘機を含む殺傷能力を持つ防衛装備品を具体的にどの国に売るかについて明確にせずに議論をしても意味がない。「何でもあり」でどこにでも殺傷能力を持つ装備品を提供すれば国際紛争の当事国に日本がなる可能性がある。

 いずれにせよ、本件については国会での十分な審議を経た上で、国民的コンセンサスを得る必要がある。国民の平和な生活を守る観点から、公明党がしっかり手綱を握り、自民党国防族の暴走を防いでほしい。

(作家、元外務省主任分析官)