政府が「特定利用空港・港湾」を指定して優先的に予算措置をする事業を進めるのは、有事にできる限り多くの「足場」を確保して運用の幅を広げたいと考えているためだ。主に「台湾有事」などで自衛隊の活動が想定される県内の空港や港湾を念頭に始めた事業で、平時から訓練などで使用できる環境づくりを目指している。
政府は当初、指定するインフラの呼称を「特定重要拠点空港・港湾」としていた。政府関係者によると、大規模な施設を設ける印象を持たれるのを避けるため、名称から「拠点」を省いた。
自衛隊が利用できるようになることで、有事の際に攻撃対象となる懸念も指摘されるが、政府は各施設を利用するのは年数回ほどとした上で「平素の利用に大きな変化はなく、当該施設が攻撃目標とみなされる可能性が高まるとは言えない」と否定する。
だが、軍事目標以外の「民用物」への攻撃を禁止するジュネーヴ諸条約は、施設が軍事活動に資すると判断されれば「軍事目標」として扱うことを定めており、懸念は拭えていない。
政府はこの事業の対象に米軍の利用は入っていないと説明しているが、物理的に利用しやすくなれば米軍の使用にもつながる恐れがある。
3月11~13日に石垣港に寄港した米軍のミサイル駆逐艦は、船の深さが規定を上回ったために岸壁に着けることができず、沖に停泊して小型船で行き来する形を取った。大型の船舶まで着岸できるようになれば米軍にとっても好都合であることは間違いない。米軍の港湾利用は日米地位協定で認めらており、日本側に拒否する権限はないとするのが政府の立場だ。
国が港湾管理権を一元的に有していた戦前の反省を踏まえ、港湾法は自治体に強い権限を与えているとされる。その趣旨を踏まえ、事業が「有事ありき」になっていないか、慎重に実態を見極める必要がある。
(明真南斗)