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重い処分 火消し急ぐ 首相 線引き不透明、残る不満 分岐点 相場観 トップのけじめ 自民裏金問題


重い処分 火消し急ぐ 首相 線引き不透明、残る不満 分岐点 相場観 トップのけじめ 自民裏金問題 安倍派幹部の処分の濃淡
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 岸田文雄首相は、自民党派閥の裏金事件を受けた安倍派幹部の処分を巡り揺れた。当初は党の亀裂を恐れ穏便に済ませる腹だったが、責任逃れに走る同派幹部に与野党から批判が殺到。除名の次に重い離党勧告で火消しを急いだ。ただ処分の線引きは不透明で、首相の責任を問う声も根強い。真相究明の棚上げがあだとなり、火種を残す。 (1面に関連)
 「派閥幹部でありながら適切な対応を取らず大きな政治不信を招いた」。2日午前、安倍派座長だった塩谷立氏や、参院側会長の世耕弘成氏ら処分対象の議員宛てに送られた自民の党紀委員会の通知書には、こう記されていた。午後に入ると首相は動き出す。衆院本会議散会後、慌ただしく麻生太郎副総裁や茂木敏充幹事長らと会談した。
 首相はもともと離党勧告以上の処分に乗り気でなかった。裏金事件で安倍派の会計責任者が立件された後の1月下旬ごろ、周囲に「極端なことをすれば党が割れる」と漏らしていた。8段階ある処分のうち、4番目に重い「選挙での非公認」が妥当―。そんな認識ができあがりつつあった。
 だが3月の衆参両院の政治倫理審査会が分岐点となる。安倍派の資金還流の対応を協議した2022年8月の会合に出席した塩谷、世耕両氏、下村博文元政調会長、西村康稔前経済産業相の4人が裏金の経緯について「知らぬ存ぜぬ」を繰り返し、国会が紛糾。矢面に立たされ続けた首相は陰で「あいつらは自分のことしか考えてねえ」と怒り、厳重処分に傾く。
 そんな中で首相自ら3月26、27両日行った4人への追加聴取。狙いは、22年に安倍派会長だった安倍晋三元首相の指示で中止したはずの違法な資金還流を復活させた責任の所在のあぶり出しだった。しかし決定的な新事実は出てこなかった。
 では4人に連帯責任を負わせるべきか。首相は29日、麻生氏ら執行部メンバーを個別に官邸に呼び、安倍派内の線引きの相場観を探った。ある幹部は「民間なら社長と担当役員が責任を取る」と主張。結果、派閥取りまとめ役だった塩谷氏と参院側を仕切った世耕氏に離党を勧告する方向性が固まった。下村、西村両氏には党員資格停止1年案が浮上する。
 閣僚経験者は差をつけた理由に関し「首相は、不満分子として4人が同じ固まりになることを嫌った」と読み解く。
 とはいえ安倍派の裏金づくりの実態が闇に包まれたままの処分先行には、自民からも疑問が上がる。ベテランは「誰が裏金を復活させたのか分からないのに、なぜ処分を分けられるのか。意味不明だ」と突き放した。
 そもそも党紀委による処分対象を、政治資金収支報告書への不記載額が500万円以上としたことをいぶかる声は安倍派内に目立つ。裏金問題を徹底追及する立憲民主党の安住淳国対委員長は「400万円の人の方が悪質なことはある。ふに落ちない」と皮肉る。
 さらにくすぶるのが首相自身のけじめ論だ。裏金への関与がなかったとはいえ、岸田派の元会計責任者が立件された。首相周辺は「派閥解散で責任を取った」と力説するが、距離を置く自民重鎮は「民間の理屈を持ち出すなら、トップが責任を取らないなんてあり得ない」と手厳しい。
 身内さえも敵に回しつつあるかのような首相。政権を取り巻く情勢はどうなるのか。立民幹部は予言する。「首相は9月の自民総裁選で再選したいんだろうが、いつまで立っていられるかな。必ず火を噴くよ」