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台湾地震と防災計画 沖縄独自の対策構築を<佐藤優のウチナー評論>


台湾地震と防災計画 沖縄独自の対策構築を<佐藤優のウチナー評論> 佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 3日朝、発生した台湾地震で気象庁は沖縄本島、宮古島、八重山地方に津波警報を発表した。このとき筆者は東京都内の大学病院の待合室にいた。大きなテレビ画面に映ったNHKニュースの津波警報と沖縄各地からの報道を、手を握りながら見守っていた。

 今回の地震から気付いたことをいくつか記しておく。

 まず、県が中心となって、学者、気象庁の実務家などの協力を得て、今後、沖縄が被災する可能性のある地震や津波についてのシミュレーションを行う。中央政府任せにしておいては、地震や津波の被害から沖縄を守ることはできないという現実を冷静に見据えて、沖縄がイニシアティブを発揮して防災計画を構築することが重要だ。

 被災時の避難所の体制、簡易トイレ、簡易水道(最近では、利用した水を循環させ、飲料水のみならず、入浴用の水を確保するシステムも実用化されている)、食料の備蓄について、具体的な計画を立てる必要がある。

 災害時における安全保障体制を確保すること。沖縄をとり囲む国際環境は緊張を増している。中国、北朝鮮、ロシアが力により均衡線を自国に有利な方向に変化させようとしているのは事実だ。この点については日本のマスメディアでも詳しく報じられている。

 これと同時に、自由や民主主義という価値観で、米国が中国、北朝鮮、ロシアを封じ込めていこうとしていることも、もう一つの現実だ。米国の(軍事)同盟国である日本もこのゲームに加わっているという現実に多くの日本人は無自覚だ。特に来週10日にワシントンで行われる岸田文雄首相とバイデン米大統領との会談では、日米の防衛協力が質的にもう一段高まる。中国からすれば、日米同盟による圧力が一層強まることになる。

 インテリジェンスの世界では、常に潜在的脅威になる国の悪意を想定して情勢を予測する。地震、津波、台風などで深刻な自然災害が起きるときは、サイバー攻撃の最大のチャンスだ。例えば、交通信号が止まっても、それがサイバー攻撃によるものか自然災害によるものかの判断がすぐにはつかない。だから対策が遅れる。地震、津波、台風などに乗じてサイバー攻撃が発電所、浄水所、飛行場、港、金融システムなどに対して行われると、どのような状態になるかについても県が独自にシミュレーションしておく必要がある。

 沖縄と中央政府は、辺野古新基地建設問題で厳しく対立した状態にある。しかし、地震、津波などの災害対策やサイバーセキュリティー問題は、在日米軍専用施設の過重負担問題とは切り離して協力できるはずだ。これらの分野で県が協議を申し入れれば、中央政府は積極的に応じてくると思う。

 ただし、気を付けなくてはならないことがある。中央政府には災害対策を沖縄における防衛力強化と結びつけていくという下心があるからだ。県としては、中央政府の思惑に乗せられないように注意しつつ、災害に対する強靱(きょうじん)な沖縄を作るために知恵を働かせてほしい。

(作家、元外務省主任分析官)