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イランの論理 事態悪化を止めなければ<佐藤優のウチナー評論>


イランの論理 事態悪化を止めなければ<佐藤優のウチナー評論> 佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 14日、イランがイスラエルをミサイルとドローンで攻撃した。イランがイスラエル本国を攻撃したのは、史上初の出来事だ。攻撃に踏み切った意図については、イラン政府が事実上運営するウエブサイト「パルス・トゥデイ(pars today)」に「植民地主義政権イスラエルに対するイランのミサイル・無人機作戦が持つ12のメッセージ」と題する論評を攻撃当日に掲載した。イランの内在的論理を読み解くための基礎となる重要文書だ。

 まず、この論評ではイランの「誠実さ」を強調する。〈今回の作戦名は「誠実な約束」というものでした。これは、友であれ敵であれ、イランは言ったことは必ず実行するということを理解させるためです。そして、その作戦内容は、イラン最高指導者ハーメネイー師の「叩(たた)いて逃げるという時代は終わった」「1回叩けば10回反撃を食らう」といった発言が裏付けのある正しいものであったことを証明しました〉(14日、「pars today」日本語版)。「やられたら、やり返す」という原則に基づいて、あくまで軍事目標主義と相互主義の枠内でイスラエルとゲームを行っているというイランの意思表示だ。イランとしては、この攻撃がイスラエルとの全面戦争に発展するつもりはないというシグナルでもある。

 さらにイスラエルに対する攻撃をしなくてはならなかった内政要因があることも強調する。〈今回の作戦は、今のイラン国民にとって、国家の安全を守り、敵に対する軍事的抑止力を強化するために必須の措置でした〉(同上)。これまでイラン国内で、イスラエルの工作員によって核物理学者を含め、イラン人が何人も暗殺されている。対してイランはイスラエル国内での暗殺や破壊活動などの対抗措置をとることができなかった。イスラエルに比較して、イランの国力が弱かったからだ。今回、イランもイスラエルの主権を侵犯する意思と能力があることを国民に示す必要にイラン当局は迫られていたのである。

 イスラエルが鉄壁の防空能力を持っているという神話を崩すこともイランにとって重要な目的だった。〈今回の「誠実な約束」作戦で、イスラエルの防空システム「アイアンドーム」の無力さがこれまで以上に白日の下にさらされました。今回の作戦では、シオニスト政権イスラエル占領地よりはるか遠くから発射された完全なイラン製無人機・ミサイルの半数以上が防衛システムを突破し、標的を破壊しました〉(同上)。

 同時に今回の攻撃は米国に対する警告であるとする。〈アメリカは、イランからのメッセージと脅迫を重く受け止め、イスラエル側から予想される一切の対イラン行動への同調を避けるべきです。算段を誤って犯罪政権イスラエルに同調するようなことがあれば、地域や地域外にあるすべての米軍基地がイランや抵抗勢力の攻撃を受けることは、アメリカ自身が熟知しているのです〉(同上)。米国に対して、イスラエルによるイラン攻撃に関連して軍事協力を強化するならば、イランの革命防衛隊(RG)やRGが支援するテロ組織によって中東地域内外にある米軍基地を攻撃すると警告している。これは単なる脅しではなく、米軍基地の攻撃も視野に入れてイランは作戦計画を立てているのだと思う。事態はかなり深刻だ。

 日本はイスラエル、イラン両国と良好な関係を維持している。外交ルートで両国に第三次世界大戦を阻止するためにも、自制が必要だと本気で訴えるべきだ。

(作家、元外務省主任分析官)