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裏金事件、自民に鉄つい 保守王国も陥落 首相再選に暗雲 衆院補選全敗


裏金事件、自民に鉄つい 保守王国も陥落 首相再選に暗雲 衆院補選全敗 当選を決め、支持者らにあいさつする亀井亜紀子氏=28日夜、松江市
この記事を書いた人 アバター画像 共同通信社

衆院3補欠選挙で、自民党に鉄ついが下された。裏金事件の呪縛は解けず、唯一候補を擁立した保守王国・島根も大敗した。全敗を喫した岸田文雄首相の求心力低下は必至。「選挙の顔」として疑問符が付けば、早期の衆院解散が封じられるだけでなく、「岸田降ろし」が広がる恐れがある。再選を目指す9月の総裁選に暗雲が垂れ込めた。

 予防線

「情勢は厳しい。最終日に首相にわざわざお越しいただかなくてもいいですよ」。投票日が迫った26日、与野党対決となった島根1区に張り付いていた小渕優子選対委員長から首相サイドに連絡が入った。首相は21日にも現地を訪れていた。2度も応援に入って負ければ首相に火の粉が降りかかる―。懸念した側近は止めようとした。首相は3補選のうち、東京15区と長崎3区は不戦敗の道を選択し、強固な保守地盤を誇る島根に絞って勝負を懸けていた。最後は首相が押し切り、27日に島根でマイクを握った。
だが裏金事件を受けた自民への逆風はすさまじく、中堅議員は「お仕置きしようとの圧力を感じた」と打ち明けた。官邸筋が選挙期間中、何度も予防線を張ったのは、首相の責任論が強まるのを警戒したからにほかならない。

悪夢再来

当の首相は政権維持へ気力を失っていない。
6月23日が会期末の今国会で、裏金事件の再発防止策を盛り込んだ政治資金規正法改正を実現し、1人計4万円の定額減税によって経済再生を実感してもらう。重要課題をこなせば「正念場を乗り切れる」(首相周辺)と踏み、今国会で解散を断行する可能性も捨てていないように映る。
しかし悪夢再来の不安は残る。2021年4月、当時の菅義偉首相は衆院北海道2区と参院長野選挙区の両補選、参院広島選挙区再選挙で全敗。8月の横浜市長選で全面支援した自民元衆院議員が敗れたことも相まって、解散に踏み切れないまま9月に退陣表明した。局面を好転させられなければ、岸田首相も同じ轍(てつ)を踏みかねない。

火中の栗

首相に遠心力が働くと、注目が集まるのは「ポスト岸田」候補だ。中でも茂木敏充幹事長は首相との関係がぎくしゃくする場面が目立つ。茂木氏は28日夜、記者団から首相をどう支えるのか問われ「党が結束して臨む必要がある」と述べるにとどめた。党内には「総裁選をにらんで自由になるため、いずれ辞任するつもりかもしれない」とみる向きがある。
とはいえ裏金事件の後始末は「誰にとっても火中の栗を拾う行為」(ベテラン)。首相に反旗を翻す動きが表面化するかどうかは分からない。報道機関の世論調査で人気の高い石破茂元幹事長も「島根1区の応援を一生懸命しないで『岸田さんは辞めろ』と言うのは、自民党のやることではない」と自制的に語る。
国会では規正法改正論議が本格化する。3勝した立憲民主党の泉健太代表は28日夜、「自民の政治改革案は全くの期待外れだ」と攻勢を強めた。深刻な政治不信の払拭は容易ではない。首相と距離を置く閣僚経験者は予測する。「総裁選まで持ちこたえても、後は不出馬に追い込まれるだろう」