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習近平・ブリンケン会談 戦争回避へ対話継続か<佐藤優のウチナー評論>


習近平・ブリンケン会談 戦争回避へ対話継続か<佐藤優のウチナー評論> 佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 米中関係に地殻変動が生じ始めている。この変動が沖縄を取り巻く安全保障環境に影響を与える可能性がある。4月26日に北京でブリンケン米国務長官が中国の習近平国家主席や王毅外相らと会談した。〈会談の冒頭、習主席は、「両国は、ライバルではなくパートナーであるべきだ。両国が対話を強化し、協力を促進することは、両国民の願いだけではなく、国際社会の期待だ」と述べました。/そして「両国はここ数か月、意思疎通を保ち一定の進展もあるが、解決すべき問題も少なくなく、さらなる努力が必要だ」と述べ対話をいっそう進めるべきだという考えを示しました。/これに対し、ブリンケン長官は「両国は、誤解や誤った判断がないよう、互いの相違点をコントロールし対話を維持、強化している」と応じました〉(4月26日、NHK NEWS WEB)。

 習近平氏の発言から注目されるのは次の二点だ。

 第一は、米中両国は大国なので、世界の秩序再編に向けたパートナーとなるという認識を表明している。世界には200近くの国家があるが、そこにはゲームを策定することができる大国と、他国が定めたゲームに従う小国がある。ゲームに従わざるを得ない国は領土や人口がいかに大きくても小国だ。「金持ち喧嘩(けんか)せず」の精神で、外交交渉によって新たな勢力均衡線を引き直す必要があるというのが習近平氏の認識だ。

 第二は、米中間の意思疎通が不十分なので、情報チャンネルを強化して、誤解を避けなくてはならないという意思を表明している。ブリンケン氏も情報チャンネルを強化して、誤解による誤った判断を避けることについては同意している。さらにブリンケン氏は王小洪公安相とも会談した。米国務省は中国外交部、CIA(米中央情報局)は中国公安部がカウンターパートのはずだが、ここではねじれが生じている。通常の外交ルートでは処理できない面倒な問題(スパイ事件やロシアや北朝鮮に関する機微に触れる情報交換など)は、CIAが処理することになるというのが外交とインテリジェンスのすみ分けだ。しかし、インテリジェンス・チャンネルがうまく機能していないようだ。だから国務省が中国のインテリジェンス機関である公安部と機微に触れる問題も処理するということなのであろう。

 今回の会談で習近平氏が軍事の論理と外交の論理を区別して考えていることが明らかになった。軍は常に最悪の事態、すなわち戦争に備えて準備を進めている。しかし、それを統制するのは政治だ。習近平氏は軍事力を背景にして米国と交渉し、戦争が起きないことに利益を見い出していると筆者は見ている。ブリンケン氏が「互いの相違点をコントロールし対話を維持、強化している」と述べていることから判断すると、抑止力を強化しつつ交渉によって戦争を起こさないという方針を米国も支持している。台湾問題をめぐる緊張が緩和される可能性がある。このことは沖縄の利益にかなう。

 東アジアで二度と戦争を起こさないという方針を玉城デニー知事が掲げ、沖縄の独自外交を進めてみると面白い。玉城知事が、岸田文雄首相、バイデン米大統領、習近平中国国家主席に懸案は対話によって解決し、いかなる状況になっても戦争を避けるのが沖縄の想いだという書簡を送ってみたらどうだろうか。3首脳は何らかの反応をせざるを得なくなる。

(作家、元外務省主任分析官)