prime

プーチン大統領就任演説 表出するスターリン主義<佐藤優のウチナー評論>


プーチン大統領就任演説 表出するスターリン主義<佐藤優のウチナー評論> 佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 7日、モスクワ・クレムリン大宮殿のアンドレーエフスキーホールでプーチン大統領の就任式が行われた。その際にプーチン氏は短い演説を行ったが、そこで示された同氏の現状認識には、帝国主義とスターリン主義の特徴が混在している。

 プーチン氏は、欧米諸国と敵対する意図がないことを強調し、棲(す)み分けを提唱する。〈私たちは西側諸国との対話を拒否しているわけではありません。ロシアの発展を妨げようとし続けるのか、長年にわたってわが国への侵略政策と絶え間ない圧力を続けるのか、それとも協力と平和への道を模索するのか、その選択は彼ら次第です。/繰り返しますが、安全保障と戦略的安定の問題を含め、対話は可能です。しかし、強者の立場からではなく、傲慢(ごうまん)さや横柄さ、自らの例外主義を排し、あくまでも対等な立場で、互いの利益を尊重しながらです〉(7日、ロシア大統領府HP、ロシア語から筆者訳)。要するにウクライナがロシアの勢力圏である現実を欧米諸国に認めさせ、新たな勢力均衡線を引くことをロシアは考えているのだ。これは19世紀末から20世紀初頭の帝国主義諸国による棲み分けの論理だ。

 さらにプーチン氏は国内的に愛国心を軸にして、外国からの侵略に対して警戒心を抱き、団結を強化することを促す。〈歴史の教訓を忘れず、内部の混乱と動乱の悲劇的な代償を忘れないことが重要です。したがって、わが国の国家と社会政治システムは、いかなる挑戦や脅威に対しても強く、絶対的な抵抗力を持ち、進歩的で安定した発展、国の統一と独立を確保しなければなりません。/同時に、安定は衰退を意味するものではありません。国家と社会システムは柔軟であるべきであり、再生と前進のための条件を作り出さなければなりません。/私たちは、社会の雰囲気がいかに変化したか、信頼性、相互責任、誠実さ、品位、気高さ、勇気が今日いかに高く評価されているかを目の当たりにしている。私は、人間的にも職業的にも最高の資質を示し、祖国への忠誠を行動で証明した人々が、国家行政、経済、あらゆる分野で指導的地位につくよう、最大限の努力を払うつもりです〉(同上)。

 どうもプーチン氏は、ロシア・ウクライナ戦争を1917年のロシア革命後に起きた赤軍と白軍の間の国内戦との類比で理解しているようだ。ウクライナのゼレンスキー政権は、外国の支援を受けた帝政復興を目指すコルチャーク軍などの白軍と同様なのだ。

 白軍にも愛国者がいたし、勇敢な将兵もいたが、外国勢力とつながっていたという事実によって、この人たちは裏切り者となったのだ。このようなプーチン氏の世界観はソ連の独裁者だったスターリンに似てきた。今後、ロシアでは、国内戦と大祖国戦争(第2次世界大戦に対するロシアの呼称)に勝利したスターリンを再評価するという動きが強まると思う。筆者が懸念するのは、多くのロシア人が消極的にではあるがこのようなスターリン再評価を受け容れ、ロシア人の思考が一層内向きになってくる危険性があることだ。

(作家、元外務省主任分析官)