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機密範囲「白紙委任」 プライバシー侵害恐れ 企業に期待と不安 経済安保新法が成立


機密範囲「白紙委任」 プライバシー侵害恐れ 企業に期待と不安 経済安保新法が成立 参院本会議で経済安保新法が可決、成立し、一礼して笑顔を見せる高市経済安保相=10日午後
この記事を書いた人 Avatar photo 共同通信

 経済安全保障に関わる機密情報の取り扱いを国が認めた有資格者に限定する新法「重要経済安保情報保護・活用法」が成立した。防衛や外交を対象とした特定秘密保護法を補完するもので、情報を漏らせば厳罰が科されるが、機密の線引きや身辺調査の具体的内容は国会審議を経てもベールに包まれたまま。機密の活用が見込まれる民間企業では商機拡大への期待と運用面での不安が交錯する。

 「枠組みだけ示し、肝心な内容は政府に白紙委任。国会審議の形骸化も甚だしい」。10日の参院本会議で討論に立った共産党の井上哲士氏は断固反対と訴えた。だが同調する拍手はまばら。新法は多くの野党の賛成も得て、あっけなく成立した。旗振り役を務めた高市早苗経済安保担当相は満面の笑みを浮かべた。

 新法は重要物資の供給網などに関する情報へのアクセスを制限する一方、身辺調査を伴う「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」を通過した人には国家機密を提供してビジネスへの活用を促す。

 特定秘密保護法と同様、恣意(しい)的な機密指定で国民の知る権利が制限される懸念がある上、身辺調査で犯罪歴や飲酒の程度、家族の国籍といったプライバシーが丸裸にされる恐れがあることから、与野党の激しい論戦が予想された。

 だが、ふたを開ければ米中対立といった安保環境の変化を背景に、立憲民主党をはじめ多くの野党が新法の必要性に賛同。政府の恣意的運用に一定の歯止めをかける国会監視の仕組みを法案修正で盛り込ませたものの、機密の範囲や身辺調査の具体的な内容は「法案を認めてもらったあかつきには詳細を検討する」とする政府答弁を切り崩せなかった。

 国際競争

 特定秘密保護法では有資格者の97%を国家公務員が占めるのに対し、経済分野を扱う新法は広く民間人が対象となることが見込まれる。経済界は「企業にとってマイナスの立て付けにはなっていない」と歓迎ムードだ。軍事と民間の両面で使える「デュアルユース」技術の開発競争が世界で激化する中、欧米並みの機密保護制度が整えば国際共同開発に参画できるなど「ビジネスの選択肢が増える」と期待を膨らませる。
 防衛装備品を手がける三菱電機は「積極的に活用を検討したい」と評価する。大手電機メーカー幹部は、人工知能(AI)など先端技術の開発では米国企業などとの連携が不可欠だとして「信頼度が高まり提携交渉が進めやすくなる」と意気込む。

 適性評価

 ただ歓迎一色でもない。実際の運用に関わる制度の核心部分は政府が今後、運用基準などで定める。「事業への影響の見極めが難しい」(インフラ業界関係者)との懸念は拭えていない。
 従業員が適性評価を拒否したり不合格となったりした場合に「労働者の権利を守る措置が不十分」だと指摘される。大手製造業幹部は「どう処遇すれば良いのか悩ましい」とし、機密保護の社内環境整備が必要な点も挙げ「大きなコストがかかる可能性がある」とこぼす。
 大手電機メーカー関係者は政府に「制度の趣旨を国民に丁寧に説明し、理解を得た上で進めてほしい」と注文を付けた。