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日中韓首脳会談 「非核化」に激高する北朝鮮<佐藤優のウチナー評論>


日中韓首脳会談 「非核化」に激高する北朝鮮<佐藤優のウチナー評論> 佐藤優氏
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 沖縄に影響を与えうる、東アジアにおける国際関係の変動が生じている。5月27日、岸田文雄首相と中国の李強首相、韓国の尹錫悦大統領が行った日中韓首脳会談(サミット)がその引き金になったようだ。

 三国首脳会談で採択された共同声明には朝鮮半島の非核化に関する言及があった。〈我々は、朝鮮半島及び北東アジアにおける平和、安定及び繁栄の維持が我々の共通の利益となり、また、我々の共通の責任であることを再確認した。我々は、地域の平和と安定、朝鮮半島の非核化及び拉致問題についてそれぞれ立場を強調した。我々は、朝鮮半島問題の政治的解決のために引き続き前向きに努力することに合意する〉(5月27日、日本外務省HP)。

 朝鮮半島の非核化について言及したことに対して、北朝鮮が激高している。5月27日に北朝鮮外務省のスポークスマンが発表した談話で、こんな非難を展開している。〈朝鮮半島を包括するアジア太平洋全域に米国主導のさまざまな軍事ブロックが存在し、朝鮮民主主義人民共和国に対する核使用を目的にした「核協議グループ」が稼働しており、地域の平和と安定を脅かす米国とその追随国家の侵略戦争演習が絶えず強行されている重大な安保環境の中で、非核化という言葉は平和と安定ではなく核危機をもたらすことになるだけである。/朝鮮半島における非核化は、力の空白を意味し、戦争の催促を意味する。/誰であれ、われわれに非核化を説教しながら核保有国としてのわが国家の憲法的地位を否定したり、侵奪しようとするなら、それはすなわち憲法放棄、体制放棄を強要する最も重大な主権侵害行為と見なされるであろう。/「朝鮮半島の完全な非核化」というのは、理論的、実践的、物理的にすでに死滅した〉(5月27日、「朝鮮中央通信」日本語版)。

 この談話には、核抑止力が北朝鮮の国家体制を維持する唯一の手段であるという金正恩体制の思い詰めた認識が現れている。朝鮮半島が非核化しても、韓国は米国による核の傘で守られる。しかし、北朝鮮を核の傘で守ることは中国もロシアもしないであろうと北朝鮮は認識している。この認識は正しい。ロシアも中国も自国のことで手一杯で、北朝鮮のために米国と核戦争を起こすリスクはとるつもりがない。

 このような現実を認識していながら、朝鮮半島の非核化で日本や韓国と手を握る中国を北朝鮮は信頼することができないと思い始めている。

 近くロシアのプーチン大統領が北朝鮮を訪問する予定だ。その際にプーチン氏が朝鮮半島の非核化を主張しないように北朝鮮が根回しを始めていると筆者は見ている。もちろん北朝鮮はロシアの核の傘に依存することも考えていない。自ら核武装することによってのみしか北朝鮮の権威主義体制を維持することはできないと金正恩氏は考えている。将来、ロシアが北朝鮮の核保有を認める土壌作りを金正恩氏は考え、プーチン氏を迎えることになると思う。

 5月27日夜のJアラートによる警報に驚いた県民も少なくないと思うが、核抑止への依存を高める北朝鮮が今後、沖縄周辺に着水する核弾頭搭載可能な弾道ミサイル実験を行う機会が増えると思う。

(作家、元外務省主任分析官)