沖縄戦の組織的な戦闘が終結したとされる1945年6月23日から79年となる「慰霊の日」を迎えた。戦後27年間の米統治から日本に施政権が返還されて52年間を経た今もなお、不発弾が発見されて住民が避難を余儀なくされる状況がある。戦争に起因する所有者不明土地は100ヘクタール近くが残されている。戦没者の遺骨は、まだ地中で見つけられる時を静かに待っている。一方で台湾海峡有事の懸念を理由に政府による南西諸島の軍備強化が急速に進められている。戦後79年の今がいつか「戦前」と呼ばれてしまうことにならないか。危機感は拭えない。
台湾有事への対処を念頭に、武力による解決や抑止力増強を訴える発言が政治家らから相次いでいる。中国側も反発し、激しい言葉の応酬の様相も呈する。
台湾有事を念頭に盛んに発言するのは自民党の麻生太郎副総裁だ。
昨年8月の訪台時の講演で、台湾海峡の平和と安定には強い抑止力が必要であり、そのためには日米台に「戦う覚悟」が求められると主張した。
麻生氏は21年7月に東京都で行った講演でも、中国が台湾に侵攻した場合には集団的自衛権行使を可能とする安全保障関連法の「存立危機事態に関係すると言っておかしくない。日米で台湾を防衛しなければならない」と台湾防衛に日米が関与する必要性を強調した。
台湾に隣接する与那国町の糸数健一町長は憲法記念日の5月3日に都内で開かれた改憲派の集会で「日本国の平和を脅かす国家に対しては、一戦を交える覚悟が今、問われている」と発言した。
国の交戦権を認めない憲法9条2項について「できれば『認めない』の部分を『認める』に改める必要があると思う」とも踏み込んだ。
一方、台湾問題を「核心的利益」として重視する中国側も言葉を強めている。呉江浩駐日大使は5月、日本が中国の分裂に加担すれば「日本の民衆が火の中に引きずり込まれる」と述べ、台湾情勢を巡る日本側の言動を強くけん制した。これに対して日本の外務省は呉大使に直接抗議。国会では呉大使の国外追放を求める声まで上がった。
沖縄国際大の佐藤学教授(政治学)は、政治家らの激しい発言やその応酬が世論に影響を与え「安保関連3文書や防衛関係予算の大幅増といった戦後の日本の在り方を変えるような変更が、国民の大きな反対なしに実現する地ならしになってきた」と分析する。
北朝鮮が衛星を打ち上げるたびに全国瞬時警報システム(Jアラート)が出される。弾道ミサイルの飛来を想定し、地下などに住民が移動する国民保護訓練も行われている。必要以上に不安を募らせる市民もいるだろう。
防衛強化が進む一方、緊張をいかに緩和させるかについての議論は少ない。偶発的な衝突を避けるためにも敵対心や恐怖心をあおるのではなく、対話の促進が必要だ。政府間や防衛当局、民間交流などあらゆるレベルで対話努力の必要性が高まっている。
(知念征尚)