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トランプ氏への北朝鮮の認識 にじむ個人的信頼関係<佐藤優のウチナー評論>


トランプ氏への北朝鮮の認識 にじむ個人的信頼関係<佐藤優のウチナー評論> 佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 米国のウィスコンシン州ミルウオーキーで15~18日に行われた共和党全国大会において、ドナルド・トランプ前大統領が正式に大統領候補に指名された。大会最終日(18日)の受諾演説でトランプ氏は、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記についてこう述べた。〈私は、北朝鮮の金正恩ととても仲良くなった。私がそう言うと、マスコミは嫌がった。どうして彼と仲良くなれたのか? まあ、誰かと仲良くなるのはいいことだ。彼は核兵器なんかをたくさん持っている。(中略)しかし、私は彼らと仲良くし、北朝鮮のミサイル発射を阻止した。今、北朝鮮はまた策動を始めたが、私たちが戻れば、彼らと仲良くできる。彼も私が戻ってくるのを望んでいる〉(ウェブサイト「FOX10」に掲載された記録より、筆者訳)。

 トランプ氏のこの発言に関して、23日に北朝鮮の国営通信社「朝鮮中央通信」がこう反応した。〈今、米国で大統領選挙競争が本格的な段階に入った中、共和党の大統領候補として公式確定されたトランプが候補受諾演説でわれわれについて「私は彼らとよく付き合った」「多くの核兵器や他のものを保有した誰かとよく付き合うのはよいことだ」などと発言して朝米関係の展望に対する未練を膨らませているが、米国でどんな行政府が発足しても両党間の追いつ追われつによって乱雑な政治風土は変わらないし、したがってわれわれはそれを意に介しない。/トランプが大統領を務めた時、首脳間の個人的親交関係をもって国家間の関係にも反映しようとしたのは事実であるが、実質的な肯定的変化はなかった。/公は公、私は私と言われるように、国家の対外政策と個人的感情は厳然と区別すべきである。/(中略)歴代行政府の深刻な戦略的錯誤のため、今や米国は本当に自国の安保から心配すべき時代が到来した。/現在のように核戦略資産を時を構わず送り込み、先端武装装備を増強し、核作戦運用まで予見した頻繁な侵略戦争試演会をヒステリックに繰り広げながら、いわゆる対話だの、協商だのといくら唱えても、われわれが信じられるか。/米国は朝米対決史の得失について誠実に考えて、今後われわれをいかに相手するかという問題で正しい選択をする方がよかろう。/朝米対決の秒針が止まるかどうかは全的に、米国の行動いかんにかかっている〉(23日、「朝鮮中央通信」日本語版)。

 「トランプが大統領を務めた時、首脳間の個人的親交関係をもって国家間の関係にも反映しようとしたのは事実である」という表現で、北朝鮮は、トランプ氏が金正恩氏と個人的信頼関係を構築することを通じて米朝関係を改善しようとした意欲をとても高く評価している。トランプ氏の意思が実現しなかったのは、米国の軍関係者や外交当局者の守旧的発想で、この勢力が米国の実体的な権力を握っているというのが、北朝鮮の認識だ。

 ちなみに北朝鮮は金正恩氏がトランプ氏と行った約束を順守し、現在に至るまで核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の本格的実験を行っていない(ICBM実験を北朝鮮は高角度で打ち上げるロフテット飛行で行っており、これだと北米大陸に確実に到達するためのデータは入手できない)。トランプ氏が大統領になってから、米国の対北朝鮮政策が変化するならば、北朝鮮も緊張緩和に応じる。米朝関係の変化は沖縄の安全保障環境にも影響を与える。県には、沖縄の利害得失を考慮した上で、トランプ政権が誕生した際の東アジア情勢の変動についての分析を進めてほしい。

 (作家、元外務省主任分析官)