公立学校教員の処遇改善を巡り、残業時間に応じた手当を支払う仕組みを導入する案が政府内で浮上した。学校教員の業務負担が膨らむ中、教員の「働き方改革」は長年の課題になってきた。教員の仕事の特殊性もあり、長時間労働の解消など抜本的な解決につながるかどうかは見通せない。文部科学省は教員給与を大幅増額する別の案を提案。財務省は財政負担増を懸念しており、省庁間の駆け引きも激しくなりそうだ。
こなせない量
「給料増よりも、仕事量を減らしてほしい。量をこなせない先生が辞めていく」。関東地方の小学校で働く30代男性教諭は現場の深刻な現状を打ち明ける。学校教員の業務は、授業準備や部活動、生徒指導などで残業時間は多いままだ。文科省の2022年度の推計によると、残業が1カ月の上限である45時間を超えた教諭は小学校で64・5%、中学校で77・0%だった。
文科省は教員の魅力を向上させてなり手不足を改善させようと、25年度概算要求で、公立校教員に対し、残業代の代わりとして支給する月額給与4%相当の「教職調整額」を13%に増やすことを求めた。しかし学校現場では「残業代を支給する仕組みでなければ、管理職が『無制限に働かせても問題ない』と考える現状のままだ」(公立小の教諭)との意見が少なくない。
見える化
新たな残業代を支給する案では、これまでの仕組みで切り離されていた給与と業務削減を、より一体的に考えられる可能性がある。残業代を通して仕事を「見える化」して、業務効率化に連動させる狙いだ。名古屋大大学院の内田良教授(教育社会学)は「残業代方式に切り替えれば、民間企業などのように業務見直しや費用対効果を考える一歩になる」と指摘。外部への業務委託やIT活用、設備更新も必要だと話す。
一方、教職調整額の制度維持の根拠となったのは、教員の職務の特殊性だ。授業準備や教材研究であっても職務なのか自発的活動なのか、精緻な切り分けが困難とされる。中教審の答申は、教員自身の自発性、創造性に委ねるべき部分が大きいとしている。
さらに不登校や特別な配慮が必要な児童生徒の増加など、学校を取り巻く環境は変化している。文科省幹部は「仮に残業代を支払う形に転換しても、業務の負担軽減とは連動しないのではないか」とし、長時間労働が続く可能性を懸念する。残業時間の削減は、働き方改革や、予算拡大を伴う教員増員で実現すべきだとする。
負担額
政府内の調整はこれから年末の予算編成に向けて本格化する。文科省は、教員の職務の特殊性から、労働基準法に基づく残業時間管理はなじまないと考えている。教員が抱える業務はその都度異なり、管理職が教員一人一人の状況を管理するのは難しいとの立場だ。
政府の試算では、文科省の主張する通りに公立学校などの教職調整額を月給4%相当から13%に引き上げると、新たな年間の負担額は国が1080億円程度、地方は4500億円程度増えることになる。
文科省が政府全体での財源確保を訴える一方、財務省は「文科省が別事業の予算を減らすなどして財源を捻出すべきだ」とくぎを刺す。年末に向け、財源を加味した議論には不透明感が漂っている。