【島人の目】まずは投げてみる


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 ロサンゼルスのいわゆる貧民街で母一人子一人で育ったある私の友人は、奨学金を獲得して名門大学に進学し、卒業後に起こしたIT事業を次々と拡大。30代で億万長者入りした成功者だ。その彼が「学校をつくることにした」と宣言した。
 転機となったのは2年前の母親の死。心にぽっかりあいてしまった穴が埋められず、自分の魂が何を求めているのかと考え続けたという。
 今でこそ成功者だが昔は問題児。中学生のころ、乱闘事件に巻き込まれ停学になった時、彼の母親はすぐ学校に飛んでいき、絶対に自分の息子は悪くないと一歩も譲らなかったそうだ。その日を境に彼は勉強に専念し始めたという。
 大学生活を支えたのは、「自分に対して言い訳をする人間にならない」という母との約束。だから中途半端ができなかったのだという。「投げたものは必ず返ってくる。だから全力を尽くせ」という母の教えを胸に、山あり谷ありの険しい道を一人で突き進み、目の前に広がる海にたどり着いた。
 母から受けた愛を自分が生まれ育った街に返したい、と開校を準備している地域は、犯罪率も高く、困難が伴うのは火を見るよりも明らか。しかし、彼の情熱は揺らがない。
 もうすぐ4月。新学期のシーズンだ。楽しい環境は、自分の心掛け次第でつくれるもの。愚痴をこぼせば不満が返ってくるだろうし、ありがとうと言えばありがとうという言葉が、笑顔にはきっと笑顔が返ってくるに違いない。何を投げるか。目標が定まったら、まず投げてみよう。
 (平安名 純代、ロサンゼルス通信員)