【キラリ大地で】ドイツ/国吉典子さん(33)那覇市出身


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 ドイツには日本でも有名なオペラ劇場がいくつかある。その一つ州立シュツットガルト歌劇場に専属合唱歌手として舞台に立つ那覇市出身の女性がいる。ドイツ滞在7年の国吉典子さん(33)である。
 城北小、首里中、興南高を経て、沖縄県立芸術大学でウーベ・ハイルマン教授に師事。ハイルマン教授の下でドイツ歌曲を勉強しているうちに、本当に理解し自分のものにするためにはドイツに行かねばと思った。しかし、経済的に無理とあきらめていたところを、ハイルマン教授に、歌劇場で働きながら音大に通ってみてはと勧められた。

 幸いに、ハイルマン教授が専属歌手として歌っていたシュトゥットゥガルト歌劇場のオーディションに受かり、待望の仕事が始まった。しかし、歌劇場の仕事の量は予想以上に多く、学生生活との両立は困難と判断し、音大入学をあきらめ仕事に専念することを決心したという。
 「沖縄から出て、いきなりドイツで働けることになったことは本当に運が良かったとしか言えません」と国吉さんは謙虚に語る。日本から留学し卒業後、いくつものオペラハウス専属合唱団試験にトライするが就職できず失意のうちに帰国せざるを得なかった多くの声楽家を筆者は知っているがゆえに、単に幸運だったとはいえないだろうと思う。
 実力がなければ、7年もレベルの高い歌劇場で歌い続けることはできなかっただろう。「今後もいろんな音楽を学び続け自分を成長させたい」と抱負を語る国吉さん。劇場でたくさんの歌手や指揮者に出会い、いろいろな声や歌い方に接し分析ができるようになった。そして指揮者によって音楽の色が違うこと、指揮者の呼吸一つで演奏家が一つになれる体験は素晴らしいという。
 彼女にとって家族と沖縄は大事な場所なので、ホームシックにかかることはよくある。半年に一回、冬と初夏に大きなホームシックの波に襲われるが、小さな波は沖縄のポップ歌手の歌を聴いたり、ドラマ「ちゅらさん」を見て家族のことを思ったりして切り抜ける。そして、大きな波のときにいつも支えてくれたのが、同郷の新垣亜貴子さん(クラリネット奏者)と第二の家族ともいうべき、当初2年間住み込みしたドイツ人家族であるという。
 慣れない環境で不安でいた時に彼らがいてくれたおかげで乗り越えられた。「恵まれた環境で仕事も順調で、自分がこの地で生かされていることにとても感謝している。私という『個』は周りに支えられ成長し成り立ってきたように思う。『いちゃりばちょうでー』をモットーに、これからも人の出会いを大事にしていきたい」と語った。
 (キシュカート外間久美子通信員)