【島人の目】社会貢献の思想


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 毎年5月初めに、北イタリアのガルダ湖畔にある妻の実家の庭園で環境と緑をテーマにしたガーデン祭りが開催される。家は歴史的建造物として国の指定を受けていて、広い庭園内に花や植物や自然食品の展示販売所などが立って多くの人が集まる。
 祭りを主催しているのは地元の建築家のグループ。妻の実家では館を3日間開放して、年老いた家族の全員が祭りの顔となって催し物に協力する。家族が無償で活動をするのは、祭りが地域の活性化に寄与すると考えるからである。
 西洋には「ノブレス・オブリージュ」つまり「貴族の義務」という伝統的な考え方がある。古い貴族家に生まれた人間には、奉仕活動や慈善事業など、社会に献身する義務があるとする思想である。
 妻の実家は13、4世紀ごろから続く家柄で、ガーデン祭りのほかにもチャリティー夕食会やコンサート、文化・学術会議の場所の提供など、よく地域奉仕に動く。館には妻の両親と独身の叔父や叔母が同居している。彼らは団結して伯爵家を守って生きてきたが、皆年老いて一番若い叔父でさえ既に78歳。家のさまざまな行事が一人娘の妻の肩に重くのしかかりつつある。
 若いころは考えもしなかったが、今後は妻の「貴族の義務」に僕が付き合わなければならない事態も起こりそうだ。そうなったら仕方がない。それが日本を飛び出した自分の「島人の義務」とあきらめて、せいぜい構えることなく、テーゲーに楽しくやっていこうと思う。
 (仲宗根雅則 イタリア在住、TVディレクター)