【島人の目】アメリカ人情物語


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 これは、シングル・マザーに育てられ、12歳のころから「悪の限り」を尽くし、ギャングの道にはまり込んだ男の改心物語である。
 オーベッド・シルバはことし30歳。17歳の時、コンビニエンスストアからビールを盗み去ろうとして店主に発砲され下半身不随になった。その2年後には車いすから発砲、相手ギャングに重傷を負わせ、逮捕された。彼の弁護士は「いつ殺されてもおかしくない人間だった」とコメントした。

 重罪犯人として裁判が実施され、誰もが50年以上の収監を疑わなかった。しかし、実際は「5年間の執行猶予」が言い渡された。裁判官はその理由を「あなたは多くの人から愛されており、将来に希望が見えるからだ」と説明した。
 裁判の結果は彼を変え、5年間猛烈に勉強した。中途退学した高校に復学、大学へと進み、今年カリフォルニア・ステート大学の修士課程を修了した。母の愛読書「ドン・キホーテ」や「レ・ミゼラブル」をむさぼり読み、専攻を英文学とした。しかし、過去に重罪を犯したオーベッドは移民局から「強制送還」という難問と遭遇している。
 2月3日のLAタイムズ記者の記事を読んで、私はいたく感動した。多くの読者から記者への特赦要請電子メールが100通にも及んだ。2月9日には裁判があり、オーベッドは「メキシコへの強制送還禁止」を訴えた。理由は博士号を取得したかったのだ。
 だが、罪状認否の裁判官と違って容赦ない移民局裁判官の結審は11月まで延期され、多くの読者を失望させた。厳格な米国の移民局裁判官の愛情表現がどこまで発揮されるかは分からないが、今後の進展を見守りたいと思っている。
(当銘貞夫、ロサンゼルス通信員)