【島人の目】アメリカンドリームは色あせた?


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 イラクのバグダッド近郊の町に住むラヒームさんは、米国移民局から連絡があり、アメリカ行きが許可されたとの報告がなされた。アメリカではアイビー・リーグに属する一大学の講師職が与えられることになった。出発まで9日間の余裕が与えられた。しかし、結局彼は米国行きは決行しないという。

 かつてイラク人にとってアメリカで永住できることは「大きな夢の実現」であり、多くの人のあこがれの的であった。イラクでのアメリカ関係の仕事に従事した人たち、マスメディア、ジャーナリスト、アメリカの軍隊と一緒に働くイラク人に、米国移民局はアメリカで住むチャンスを与え、既に4400人以上が米国に渡った。
 しかし、最近は事情が変わってきた。アメリカへ渡ったイラク人の多くが、イラクへUターン傾向にあるという。それはアメリカの経済の悪化が大きく影響している。同時に、イラク情勢がよくなって来ているのも要因の1つだ。最近のバグダッドはまだ少々不安定だが、マーケット、レストラン、ブティック、ナイトクラブなどが出現、おまけに個人所得もだいぶアップしていると、3月10日付のLAタイムズは報じている。
 それに比べてアメリカはどうだろう。クリントン元大統領時代に蓄積した膨大な黒字を、ブッシュ前大統領時代の8年間で赤字に転落させ、世界を経済不況に陥れてしまった。オバマ大統領の新政策にも共和党は歩調を合わそうとしないどころか、足を引っ張る。それでは「変革」の実現は困難に違いない。
 2008年日本エッセイスト・クラブ賞受賞の堤未果著「ルポ 貧困大国アメリカ」の中に、アメリカ社会が大きく批判されている。
 世界の人々がかつて夢見たアメリカン・ドリームは色あせてしまったのだろうか。そうではあるまい。信頼厚き指導力のある国への再生には時間と忍耐が必要であろう。
(当銘貞夫ロサンゼルス通信員)