【島人の目】解き放たれて


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 時として、深い悲しみと苦痛が素晴らしい芸術を生み出すことがある。偉大な芸術家の名は、死して永遠のものとなり、その足跡と作品は後世の財産となる。
 世界で最も成功したエンターテイナー、マイケル・ジャクソンが急死した。国境や人種などあらゆる壁を越え、世界中の人々に愛される数々の楽曲を生み出したスターの突然の訃報(ふほう)に、アメリカはまるで国全体が喪に服しているかのようだ。

 名声も栄誉も巨額の富も手にしたマイケルだが、表舞台の裏には、長年に及ぶ病との闘いがあった。マイケルは、1980年代に皮膚のメラニン色素が崩壊する「尋常性白斑」を発病。併発した免疫力の低下や肺の病に加え、ステージから転落して骨折した鼻の整形手術の不成功による呼吸の問題などにも苦しんでいた。年を追うごとに変化していく皮膚の色はさまざまな憶測を呼び93年に病を告白。しかし「白人になりたくて皮膚を漂白している」という人々の偏見をぬぐい去ることはできなかった。
 スターの孤独というものは、その場に座したことのない者にとって推し量ることは難しい。元妻のリサ・マリー・プレスリーは、マイケルが自身の早世を予感していたこと、周囲の重圧から彼を守るのは不可能だったと告白している。
 13日開幕予定だったロンドン公演の売上総額は約80億円。50歳で50回連続という超過激なものだが、チケットを手にした約80万人のファンのことを考えると、年齢や体力的限界を感じながらも自分自身を極限まで追い込まざるを得なかったのだろう。
 世界中の人々に感動を与え、人生の最終章を静かに閉じてしまったマイケル。孤独だったかもしれない。人より苦痛を感じることが多かった人生かもしれない。しかし、スポットライトの光に包まれながら、ステージで自由に才能を解き放つ至福の瞬間を味わって逝ったのだと信じたい。
(平安名純代、ロサンゼルス通信員)