【島人の目】ベトナム古今物語


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 私は1995年から98年までの3年間、ベトナムで駐在員として働きながら、ホーチミン市大学で日本語を教えていた。そのころのベトナムは、まだ外資導入が本格的に始まった直後であり、ベトナム人学生は驚くほど、質素で純粋であった。その純粋な彼らとの触れ合いにより、人生の多様性を感じ取り、リフレッシュしていた。

 あれから早いもので10年以上の月日が流れている。ご存じのように、ベトナムの経済開放政策は順調に進み、各国企業の投資を受け入れて経済は好調である。当時の大学生たちも30代になり、企業などの幹部として一線で活躍している。
 最近、出張でよくベトナムに足を運ぶようになってきた。驚かされるのは教えていた学生たちの変化である。豊かな生活を手に入れ、西洋文化を受け入れた彼らは、ぜいたくな金の使い方をしたり、私を交えた食事会に妻子を家に残したまま、愛人を同伴させたり、また、数人から結婚と離婚の報告を一度に聞くなど、大変驚かされた。経済成長が必ずしも幸せを運ぶのではないと感じる。
 私がベトナム駐在のころは運転手付きの車にスーツ姿で、当時の彼らからしたらあこがれ的存在であった。今は小売業をしているので、カジュアルな服装がもっぱら。「何だ、先生も落ちぶれたな」という態度をとる者もいる。急速に成長したひずみの中に置かれた彼らを責めることはできない。ただ、人生の先輩として、これからも、いろいろな価値観や物事の多様性などを伝えてあげたいと思う。私が彼らとの触れ合いから教えてもらえたように、また、ベトナムがさらに素晴らしい国となるように。
(遠山光一郎、シンガポール現地法人社長)