【島人の目】歌手・秋川雅史


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 秋川雅史を初めてテレビで見たのは2年ぐらい前のことであった。「わたしのお墓の前で…」と歌っている。奇妙な感じがした。これまで聞いた歌の中で「墓」が最初の部分で出たことはなかったからである。これが「千の風になって」のタイトルだと知ったのはしばらくたってからである。

 奨学生を日本に派遣するためにオーロラ日本語奨学金基金財団は「千の風になって」で一躍有名になった歌手・秋川雅史のロサンゼルス公演を開催した。愛媛県出身、国立音大大学院を終了したクラシック・テノール歌手である。2001年に歌手デビュー、イタリア留学でカンツォーネを学んだ。06年にカバー曲「千の風になって」でNHK紅白歌合戦に初出場、その後、この曲は瞬く間にトップランクの座を射止めている。
 コンサートでは桑生美千佳のピアノ演奏だけをバックに約16曲を歌った。秋川の声量はクラシックとカンツォーネで鍛えられた力強いもので、特に「イヨマンテの夜」などの高音が魅力いっぱいであった。「美幌峠」では哀愁に満ちた声で観客を魅了した。「千の風」を聞いて涙する観客も見られた。最後の曲を歌い終わった時、観客は総立ちで拍手を惜しみなく送った。日本からのファンが六十数人もいたのは驚きであった。
 この歌手の歌を聞いて感心したことは、歌っている最中の息継ぎが巧みなことであり、すべて自分自身の持ち声で誠心誠意にパフォームすることであったと感じた。それに司会と進行役も自分で、知識豊富でユーモアにあふれていた。
 100ドルの上席2枚を贈呈してくれたオーロラ奨学金基金の阿岸明子会長の行為が忘れられない夜となった。(当銘貞夫、ロサンゼルス通信員)