【島人の目】グルメな大量パスタ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 ドキュメンタリー番組リサーチのために3、4年前から南部イタリアのある祭りを取材している。街が8地区に分かれて、それぞれが日本の御輿(みこし)に似た神体をかついで騒ぐ祭りである。先日もその様子を取材した。

 祭りの準備の期間中は大勢の人が集まってひんぱんに飲み会や食事会を開く。今回はそれぞれ300人から500人が参加する4地区の会食に招かれた。祭りの資金集めも兼ねる前祝いのそうした宴会には、各地区内のほとんどの男女が出席して気勢を上げる。楽隊のにぎやかな演奏も花を添える。大いに騒ぎながらパーティーが進行していくのだが、このとき出される食事が「さすがはイタリア」と思わずうなってしまうくらいに印象深い。
 パスタをはじめ、出てくる料理がみなうまいのはイタメシだから当たり前として、一人一人の客に与えられる食事のすべてが温かいのである。特にパスタには感心する。多人数に一斉に提供されるパスタは、初めはいいのだが、配膳(はいぜん)が進むにつれて冷めてしまうのが普通である。
 そのために時間経過とともにだらけた味気ない感じになり、なんだか心がこもらない。あるいはこめた心に隙(すき)ができる。ところがその祭りのパスタは、まるで一皿一皿をその場その場で茹(ゆ)でたようにほかほかと温かい。
 要するに配膳や保温の技術が素晴らしいのだが、祭りに限らず、人々が招いたり招かれたりして大勢で食事をすることがとても多いイタリアの風習が、そうした技術をさりげなく発達させたに違いないと気づいて、感心することしきりだった。
(仲宗根雅則、イタリア在住TVディレクター)