【キラリ大地で】ロサンゼルス/上地健太郎さん(24) スシ職人目指す若者指導


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ロサンゼルス市内の米国スシ調理師学校(Sushi Institute of America)で講師として活躍する上地健太郎さん(左)

 「厳しい修業の後には楽しいことがたくさんある。スシシェフになりたいという若者たちの力になりたい」。和食レストランが北米市場に定着し、スシシェフを目指す米国人の若者たちも増え始めた今、自らの経験を生かし、人材育成に貢献しようとロサンゼルス市内の「米国スシ調理師学校」で講師として活躍しているのが上地健太郎さん(24)だ。

 約1万軒ある在米和食店のうち、日本人経営は全体の約2割。ブームに便乗し、中には利益優先で食品衛生知識を持たない技量不足の板前を抱えた店も多く「業界を守り繁栄させるためにも日本料理の伝統を理解したシェフを育てなければ」と日々の指導に意欲を燃やす。
 移民社会ロサンゼルスを象徴するかのように、生徒たちの人種も白人やユダヤ系、モンゴルやアルメニア、アジア系とさまざまで、年齢も10代後半から40代半ばの転職組、大卒後に門をたたいてくる者まで幅広い。「スターシェフ」という言葉があるように、アメリカには若者たちからアイドル視される人気シェフもいるほどで、ハリウッド俳優らを前に、スシを握るシェフにあこがれやってくる若者も多いが、講義では、だしの引き方や落としぶたといった器具の使い方、旬の素材の持ち味の生かし方などの基本を厳しく指導する。
 アメリカ生まれの上地さんは沖縄での生活経験を持つ2世。シェフ歴は4年弱だが、経験の短さに反比例する実力を備え、ロサンゼルスの一流レストランに勤務するシェフでもある。日本語、英語ともに流暢(りゅうちょう)だが、料理専門用語などは分からないことも。「そんなときは英語の辞書で意味を調べ、語源や歴史を確かめ、付随する日本の文化や精神性も伝えられるよう努力します」
 厳しい講義の後のランチタイムでは、生徒たちはそれぞれが試作した握りズシや料理を食べながら互いに批評したりと和やかな雰囲気。文化背景が異なるだけに、時として会話は地球をぐるっと一周することも。個性がぶつかりあい衝突が生じた場合には、「クラスは一つのチーム。心を打つ料理作りは和を尊重することから」と優しく諭す。
 大きな木を育てたいとき、種をたたいても芽は出ないし、芽を引っ張っても葉は茂らない。「彼らの可能性をいかにして引き出すかが僕の仕事。生徒が納得できるまで何度も説明する」と生徒の進度を心に掛ける。
 「知識がなければ教えられない。忍耐力がなければ人は育てられない。こうした学びを一つ一つ体得しながら自分も成長していくのを感じる」。若き教育者が始めた種まきは、いつの日か世界へ向かって豊かな緑を生い茂らせるかもしれない。(平安名純代ロサンゼルス通信員)