【島人の目】ナポリの正月


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 以前、元日から3日連続でNHKの正月番組を作ったことがある。ナポリとポンペイとカプリ島から、日本に向けて毎日2時間の生中継をしたのである。僕は元日のナポリ編の監督として演出を担当すると同時に、番組全体のイタリア側総責任者でもあった。つまり二足のわらじを履いたのである。

 中継番組というのは仕掛けが大きく、演出だけでも大変な仕事なのに、現場プロデューサーの役割まで引き受けた僕は、途中で仕事を投げ出したくなるほどのプレッシャーを受けて苦しんだ。苦しかったのは、ナポリの正月が何もなかったために、予想以上に仕事が増えたせいである。
 ナポリでは大みそかの夜から新年にかけて花火が打ち上げられ爆竹がけたたましくはじけて大騒ぎになる。ところが、その後に来る正月の昼間は見事なくらいに何もない。人々は疲れて昼ごろまで寝ている。起きても別に何もしない。クリスマスから続いていた祝賀や遊びや興奮は昨夜で完全に終わったのである。
 テレビ屋にとってはこれは非常につらい状況である。何かが起こらなければ番組にならない。「何もないイタリアの正月を紹介する」というのも番組のコンセプトの一つだった。それはしかし、テレビ画面に何も映さないという意味ではない。「ナポリの正月は何もない」という現実を、いろいろな「何もない絵」を組みこんで見せていくのが僕の仕事である。これが苦しかった。大変な仕事だった。それほどにナポリの正月は何もない。
(仲宗根雅則、イタリア在住、TVディレクター)