【島人の目】祭りのあとの寂しさ


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 バンクーバー五輪女子フィギュアスケートの決勝はイタリア時間の未明に始まった。ひとり起き出してテレビの生中継を見ていた僕は、浅田真央選手が登場したとき、ひどく驚いて思わずソファから身を乗り出して画面に見入った。

 赤と黒を基調にした衣装に黒い手袋をはめ、濃い化粧と真っ赤な口紅で重装備した彼女は、普段の明るいはつらつとした雰囲気とはかなり違っていた。奇抜にも見える装いは、審判に強く訴える劇的な効果を狙ったものであることは誰の目にも明らかだった。
 身なり自体も驚きだったが、僕がもっと瞠目(どうもく)したのは、いわば組み合わせの妙とでも言うべき絶好の舞台展開だった。つまり、直前に滑ったキム・ヨナ選手の落ち着いた、ある意味で王道とも言える自然体の演技に対抗できるのは、これしかない、と思わせる派手でけれんみたっぷりの、少し大げさに言えば革命的でさえある姿に見えたのだ。
 事実、彼女の演技は、後半のミスさえなければキム選手を抑えて金メダルを獲得していてもおかしくない斬新なものだったと思う。しかし結果は周知のようになった。戦いが終わってみると、なぜか僕の記憶には得点発表を待って電光掲示板を見上げていた浅田選手の厚化粧の顔ばかりが強く残り、しかもそれはひどく物悲しい印象である。
 浅田選手はせっかくさわやかで美しい容貌(ようぼう)を持っているのだから、次回は奇をてらうことなく、自然体で必ず金メダルを獲得してほしいと願うのは僕だけだろうか。
 (仲宗根雅則 イタリア在住、TVディレクター)