【島人の目】月のため息


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 「グアムの海の底にはたくさんの涙が沈んでいる。人間が繰り返す過ちを一体いつまで見届ければいいのだろう。そんな月のため息が聞こえてくるようだ」。米軍基地拡張建設が進むグアムの様子を知らせてきた友人がこうつぶやいた。

 美しい自然と島の人々が共に歩んできた歴史を刻むたくさんの美しい伝説を持つグアムの島では今、武器を運ぶ道を造るために木が切り倒され、島を駆け抜ける風は潮のにおいの代わりによどんだ空気を運んでくるのだという。
 「目先の豊かさに心を奪われた人々と、島の誇りを守り抜こうという人々で島は分断している」と語る友人は、遠い沖縄へ思いをはせながら「僕らが声を上げても、遠く離れた米国本土にある中央政府には届かない。イエスかノーかという意思表示さえできない。少なくとも政府が耳を傾けてくれる沖縄はグアムよりも恵まれている」と複雑な心境を吐露した。
 スペインの支配下から米西戦争でアメリカの領土となったグアムでは、先住民のチャモロ人はチャモロ語を話すと体罰が加えられたりしたという差別的体験を持つという。「グアムは米領だけどアメリカの民主主義はもたらされなかった。心の底では誰も米軍基地の増強なんて望んでいないんだよ」。友人はそう説明しながら、軍需産業による経済的発展を願う大人たちに対し、祖先が残してくれた自然を守り抜こうと反対運動を展開する若者たちの間で島の歴史を学び直す動きが活発化していると話してくれた。
 戦争で島の自然が破壊されていく日々を見守ってきた星たちに願いをささげながら、進むべき道を模索し続けるグアムの人々。そんな島を見守る月は、今夜もため息をつきながら人々の足元を優しく照らし続けている。
(平安名純代ロサンゼルス通信員)