【島人の目】デジタル革命とジャーナリズム


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 ニューヨークを拠点とする非営利報道機関「プロプブリカ」がオンライン・メディアとして初めて米報道界最高の栄誉であるピュリツァー賞を受賞した。
 2008年に記事の発信を開始した同機関を主宰するのはウォール・ストリート・ジャーナル紙の元編集局長らで、記者数はピュリツァー賞受賞歴のある7人を含む32人。全米最強の調査報道チームといわれ、独自の取材体制で汚職事件などの隠れた事実を掘り起こした一連の記事で、新たな調査報道の担い手として嘱望されている存在だ。

 こうした新しい媒体が誕生した背景には大規模なメディア再編もあるが、報道体制における革命を推し進める要因となったのはやはり01年の米中枢同時テロだろう。
 「テロとの戦い」を大義名分に掲げた当時のブッシュ政権は、愛国心の名の下にメディア干渉を強め、戦争批判の記事を掲載する大手紙は皆無に近い状態が続いた。イラクで多数の民間人が犠牲になっても、記事は米兵の死傷者数を伝えるものがほとんどで、政府に都合のいい内容が紙面を埋め尽くし、反戦を叫ぶ声はかき消されていった。
 いわば政権の言うなりの報道体制のなかで、真実を追究するジャーナリズム魂を見失わなかった記者たちは、国家権力の暴走に対し、危機意識を目覚めさせ、新たな活路を求め飛び出していった。そうした記者らに手を差し伸べたのが、事実の情報源が縮小し始めた現実を憂慮した私営財団だ。
 「誠実報道」への期待を託され、大きな支えを受けて始動した「プロプブリカ」は、購読料もなく、他社へも無料で記事を提供しているが、現在では運営費の大半を一般市民からの寄付で賄っている。
 大手紙に比べ、オンライン媒体は信ぴょう性が薄いと批評されがちだが、今回のピュリツァー賞受賞は今後の報道体制の在り方に大きな影響を与えるだろう。
 米メディアは混迷の過渡期。デジタル革命で新聞社の淘汰が進み、形態が変化したとしても、真実を求める市民社会の欲求がある限り、ジャーナリズムが衰えることはないのである。
(平安名純代、ロサンゼルス通信員)