【島人の目】エノラ・ゲイ雑感


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 3月末に、エノラ・ゲイの搭乗員だった一人が亡くなったと小さい記事が新聞に載っていた。ハーバード大とマサチューセッツ工科大で物理学を学んだモリス・ジェプソン氏。12人の乗組員のうち、唯一彼と機長のみが、搭載する爆弾が初の原爆だと知っていたという。技術担当だったジェプソン氏は、原爆投下時の秒読みを担当していた。
 昨年、オバマ大統領が、原爆投下の道義的責任について言及したことに新聞のインタビューでジェプソン氏は、怒りをあらわにし、「それは、間違っている。戦争早期終結のためだった」と正当化した。

 「眠れない日はなかった。やるべきことは、やった」と言うポール・ティベッツ機長が原爆搭載機に自分の母親の名前を付けた神経もどうかと思うが、保管していたエノラ・ゲイの原爆の安全装置のプラグを競売に掛け、多額のお金を得たジェプソン氏の無神経さに怒りより悲しさを覚える。
 16年前、ワシントンの国立スミソニアン航空宇宙博物館で広島、長崎原爆展を催す企画が米退役軍人団体の反対に遭い、原爆被害と歴史的背景等が大幅に削除された。逆にエノラ・ゲイが英雄視され、原爆の必要性が強調された展示に変えられた。退役軍人団体の巨大な力をまざまざと見せつけられた思いだ。
 しかしながら、乗組員の一人だった故ロバート・ルイス氏は、広島の惨状を目の当たりにし「マイ、ゴッド。神よ、われわれは、何ということをしてしまったのか」と叫んだという。晩年を精神科病院で過ごし、キノコ雲から涙が一滴したたるような形の彫刻作りに専念して没したルイス氏の姿に、搭乗員だった彼らもまた戦争の被害者だったとの感はぬぐいきれない。
 現在、エノラ・ゲイは、厳重警備の中、ワシントンDC郊外の航空博物館別館に広島の惨状など一切記載されず展示されている。
(鈴木多美子、ワシントンDC通信員)