【島人の目】戦場で語るロック魂


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 「オバマは腰抜けだ。戦争を分かっていない。現場はバラバラ。こんなんじゃ勝てない」―。若者に人気のローリングストーン誌が、アフガン駐留米軍のマクリスタル司令官独占インタビューの予告をサイトに掲載したとたん、ホワイトハウスがあわただしく動き出し、48時間後にはオバマ大統領が同司令官の解任を発表した。

 戦時中のトップ解任はトルーマン元大統領以来、実に半世紀ぶり。瞬く間に米全土を駆け抜けた衝撃的なニュースの裏で大きくクローズアップされたのが米軍とメディアの関係だった。
 記事を執筆したのは、ニューズウィーク誌の元バグダッド特派員で現在はフリーのマイケル・ヘイスティングス氏。政権を揺るがす大スクープを手掛けた同氏に対し、米軍担当の主要メディア記者たちは「非常識なフリー記者がオフレコ話を暴露した。今後の取材が難しくなる」と一斉に非難。なかには、大統領をやゆする発言をした司令官を「フリー記者の取材に不慣れなためにすきを突かれた」と擁護する記者もいたほどだ。
 アメリカのフリーランス記者たちは、オフレコと明確に言われない限り「聞いたら書く」のが常識だが、米軍担当記者たちの世界ではどうやら事情が違うらしい。
 ヘイスティングス氏はこうした批判に対して「報道協定はなく、オフレコと言われたところも書かなかった。記者の使命は、見た事実をその通りに伝えること。大統領をやゆする態度はオフレコでも許されないのでは」と反論し、逆に、軍幹部の問題発言に目をつぶり、情報収集を最優先させようとする姿勢を「軍幹部と記者の過剰ななれ合い」と批判した。
 騒動から2週間後にアフガンからラジオ番組に出演した同氏は、泥沼化する戦場で疲労する米軍の実像を米国民に知らせたかった、と取材の意図を語り、「オバマ政権誕生後に目標はアルカイダ掃討からアフガン国家再建へと変わったが、米軍はもともと戦うためにつくられたもの。だからそれを指揮する幹部層も限界に達している」と話した。
 番組には聴取者から電話で次々と感想が寄せられ、「戦地はひどかった。だけど怖くて批判できなかった」と語る元米兵に「ホーム(故郷)では機関銃の代わりにロックを聴いて楽しむんだぞ」とエールを送っていた。
 平和への一歩は戦地の惨状を伝えることから、と今日もまた防弾チョッキに身を包んでアフガンで取材を続けるヘイスティングス氏。平和への思いを胸に戦場を転がるロック魂にブレーキはないのである。(平安名純代ロサンゼルス通信員)