【島人の目】ある海兵隊員の忠誠心


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 「沖縄に駐留経験のある米兵なら、『普天間』はすぐに閉鎖すべき飛行場だと誰もが知っている。長い月日が経過したが、閉鎖を阻む要因は複雑に絡み合っている」。そう話すのは米海兵隊に所属するジェイだ。今から2年ほど前、米軍ヘリ沖国大墜落事故について内側の声を知りたいと思い、事故発生時に普天間飛行場に駐留していた米兵を捜していたころに出会った。

 「現役だから取材には応じられない」と前置きした上で、「いつ事故が起きても不思議はなかった。沖縄はイラクやアフガンなど戦地への通過点。当時、内部では士気が高まる代わりに死の恐怖におびえる兵士のほうが多く、絶えず緊張感にさらされていた。集中力を欠いていたね」と話した。
 学歴も経済力もなかった自分の唯一の選択が入隊だった、という彼が描いていた「正義の味方」という海兵隊のイメージは、入隊後に見事に崩れ落ち、沖縄とイラクでは米軍が歓迎されない存在であることを肌で学んだという。
 軍人としての生活は、うれしいことよりもつらいことのほうが多いそうだ。上官に反論してはいけないという鉄則を破って降格された経験や、死に直面したこともある。
 人や自分が信じられなくなり、退役して平和運動に加わりたいと思ったこともあったが、「一度海兵隊に忠誠を誓った者は死ぬまで海兵隊」という誇りに支えられ、軍に残って内側から米軍を変える道を選択した。
 沖国大ヘリ墜落事故が発生した8月13日がめぐってくるたびに、普天間飛行場を閉鎖したいという願いが今年も達成できなかったとため息をつき、「あの校庭で体操していた子どもたちのためにも急がないと」と焦るという。
 事故から6年という月日が流れ、状況は変容を遂げつつある。ゲーツ国防長官は5月3日の演説で海外米軍基地の見直しを含む軍事縮小計画への意欲を宣言し、7月29日には軍需産業15社の幹部を招き、軍事削減計画への協力を要請した。基地を一つ閉鎖すれば、そこに所属する部隊や制服組トップもリストラの対象となる。自分の座を失うまいという内部攻防は激化しているが、米国防総省を筆頭とする軍縮の流れは確実に加速し、ジェイはその歯車の一つとなっていることに使命感を燃やしている。
 「沖縄では、軍服姿の時には冷たい視線を感じることもあったが、私服の時は人々はフレンドリーな笑顔を向けてくれた」と話すジェイ。「安い食堂に入ると、いつもおばあさんが笑顔で何度もみそ汁のお代わりを運んできてくれた。いつか軍服のいらない市民として行きたいな」と沖縄に思いをはせながら、自分は自分の居場所で正義を貫かなければ、と厳しく自身を律している。
 米軍を変えるには米兵たちが声を上げることから―。米軍の役目とは市民を守ることと信じるある海兵隊員の忠誠心は、沖縄にも向けられているのである。
(平安名純代ロサンゼルス通信員)