【島人の目】長寿王国日本?


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 「所在不明の高齢者が続出」という日本発の驚きのニュースは、高齢化社会に向かってまっしぐらに進んでいる世界の国々の人心を少なからず揺さぶった。
 ここイタリアでは一昨年、高級紙「コリエーレ・デッラ・セーラ」に“マツサレムは極東の島にいた”という書き出しで始まる特集記事が掲載された。マツサレム(英語のメトシェラ)とは旧約聖書の登場人物で、969歳まで生きたとされる天寿のシンボルである。

 記事は、沖縄を舞台に日本の長命の秘密を解き明かそうとしたもので、2ページにもわたる大きな論考だった。そこには沖縄の「長寿の危機」という最新の視点が欠落していたが、外国の物事に少し遅れて反応することがあるのはどこの国のメディアも同じだから、僕は故郷が話題になっている記事を少しうれしく思いながら読んだ。
 その報告は多くのイタリア人に「世界一の長命国日本」というイメージを植え付ける役割を果たし、以来イタリア国民は長寿王国日本を称賛する気持ちを抱き続けてきた。そんな折に日本から突然「所在不明のお年寄りがめじろ押し」というニュースが飛び込んできたから大変である。「長生きはうそか?」と人々はまゆをひそめた。
 イタリアも長寿の国である。しかも家族の絆(きずな)を最重視するカトリックの総本山バチカン市国とほぼ同一体の国家であり、ヨーロッパの先進国の中では家族の結び付きが最も強い社会と断言してもいい。高齢者に対する敬愛や関心も高い。それだけに日本での奇怪な出来事を人々はあっけにとられて見詰めている。
(仲宗根雅則 イタリア在住、TVディレクター)